平山亜佐子 断髪とパンツーー男装に見る近代史 新橋芸者、鈴木屋小竹の場合

第七回 新橋芸者、鈴木屋小竹の場合
平山亜佐子

それもこれも春の宵のなせるわざ......?

 実はこの記事は対称性に満ちている。

 女性が男性になること、庶民が警察を出し抜くこと、そして芸者が公爵に見間違われること。

 男装を可能にし、庶民の公爵様への体当たりも可能にする花見という空間は、非日常というより日常の正反対、鏡像なのである。それもこれも春の宵のなせるわざ......とまあ、なんだかあまりによくできた話で、実はフィクションでは? という気がしないでもない。が、小竹ならさもありなんと思わせる程度の誇張でないと読者も面白くない。そして、誇張の仕方で当時の人々の感覚や思想が透けて見えるというわけで、そう捨てた話でもないのだ。

 ところで小竹と島津公爵、いくらなんでも男性と女性で見間違うことがあるかとお思いの向きはご自分の目で確かめてもらおう。

 この二人、似ていますか?

 

 参考文献

「新橋の小竹、島津公爵と間違えらる」1896(明治29)年4月21日付読売新聞

『寫眞畫報 15』春陽堂

「老妓小竹、東京の三弁士を閉口せしむ」1894(明治27)年4月15日付読売新聞

 

平山亜佐子
挿話蒐集家/文筆家
1970年、兵庫県芦屋市生まれ。エディトリアルデザイナーを経て、明治大正昭和期のカルチャーや教科書に載らない女性を研究、執筆。著書に『20世紀 破天荒セレブ:ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝:莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)、『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)がある。なお、2011年に『純粋個人雑誌 趣味と実益』を創刊、第七號まで既刊。また、唄のユニット「2525稼業」のメンバーとしてオリジナル曲のほか、明治大正昭和の俗謡や国内外の民謡などを演奏している。
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