出口治明✕村木厚子 「女性がつくった国・日本」をガラパゴス化から救うショック療法
「あみだくじ」で女性を登用せよ
─歴史的に見ると日本は決して男尊女卑ではなかったとのことですが、現在はジェンダー平等への取り組みが遅く、ガラパゴス化しているとすれば、どんな対策が必要でしょうか。
村木 先の「ジェンダー・ギャップ指数」で言えば、経済・政治・教育・健康の四つの指標から判断されます。日本の場合、このうち教育と健康のスコアはかなりいいんです。しかし経済がダメで政治が最悪。これらをどうするかが、直近の課題ですね。スピード感を持って対応すること、それと意思決定の場に女性も加わることが大前提です。
出口 そうですね。政治と経済について女性の地位を上げるには、クオータ制が一番です。例えば国政選挙なら、男女同数の候補者を立てないと政党交付金を減らすとすればいい。それだけで、あっという間に解決できますよね。あるいは上場企業であれば、女性の取締役が少なければ上場を取り消すなどというルールを作ればいい。そういうインセンティブを上手に与えるだけで、数字は達成できます。 あとは、クオータ制を導入するための仕掛けをどう作っていくか。問題はそこだけですよ。
村木 私も政治のクオータ制は大賛成。そもそも政治は代表なので、女性が半分いて当然なんです。もうやる気だけの問題で、ぜひ早く導入してほしいと思っています。
しかし民間企業の場合はどうなのか。コロナ禍を契機に働き方は変わりつつありますが、一方で長年の慣例も捨てきれない。私は企業の仕事も少しだけしていますが、「女性登用」と言えばたいてい社外役員で済ましてしまうんです。「では社内の登用は?」と尋ねると、どの企業も判で押したように「もうすぐ育ちます」という答えが返ってくる。
クオータ制とまではいかなくても、せめて数値目標を設定して女性を引っ張り上げることを強力にやってほしいと思うのですが。そういうふうにしないと、日本の企業はなかなか変わらないんじゃないかなと。
出口 「もうすぐ育ちます」という考え方が根本から間違っています。ロールモデルがないのに人が育つはずがありません。だから僕は、とにかく人数を決めて女性を登用することが大事だと思っています。そのためには、最初はあみだくじで選んでもいい。それを繰り返すことで女性が育っていく。「地位が人を育てる」といいますが、たしかに管理職にしろ役員にしろ、やってみなければわからないことがたくさんあるじゃないですか。
村木 あみだくじはいいですね。今度、提案してみます(笑)。そこまで言わないとわかっていただけないですね。
そしてもう一つ、企業の採用担当の方からよく聞くセリフが「成績順に取ったら全員女子社員になっちゃう」。私はいつも「大丈夫です、女性は半分しかいませんから」とお答えしているんですが、やはり女性はそこそこ増えればいいという認識なのかなと。仮に全員女性になったとしても、優秀ならそれでいいと思うんですけどね。
出口 Google社の人事担当者に聞いたのですが、中途採用の際に尋ねるのは「今は何をしているのか」「過去に何をしてきたのか」「これから何をしたいのか」の三つだけ。そこに年齢が加わると、若い人にしようかというバイアスが働く。性別が加わると、前回は男性を採ったから今回は女性にしようというバイアスが働く。それらを取り除きたいから性別・年齢・国籍をフリーにしたそうです。だから志望者は、性別も年齢も、それに国籍も答えなくていいんです。
これを世界標準と考えるなら、性別にこだわるおじさんこそボコボコにしないといけませんね。(笑)
村木 アメリカの国務省も同様でした。以前ヒアリングしたところ、採用も昇進も選考時に性別がいっさいわからないようにするそうです。余計なバイアスがかからないように。
その上で、職員が結婚したり子供ができたりした場合、今度は一年ごとに事情を考慮するそうです。例えば一方が転勤になったらパートナーに同じ赴任地に行きたいかどうか尋ねたり、夫婦向けのニュースレターを作って情報発信したり。だから性別や年齢にとらわれずに採用・昇進させることと、家庭の事情を気遣うことは両立できるんです。こういう仕組みを日本の企業も取り入れてくれたらいいなと思っているんですが。
〔『中央公論』2021年1月号より前半部分を抜粋〕
1948年三重県生まれ。ライフネット生命保険創業者。京都大学法学部卒業後、日本生命に入社。2006年ネットライフ企画(現・ライフネット生命保険)設立。18年より現職。『生命保険入門 新版』『仕事に効く 教養としての「世界史」』『リーダーは歴史観をみがけ』『還暦からの底力』『哲学と宗教全史』(ビジネス書大賞2020 特別賞)など著書多数。
◆村木厚子〔むらきあつこ〕
1955年高知県生まれ。高知大学卒業後、労働省(現・厚生労働省)入省。2009年郵便不正事件で逮捕。10年無罪が確定し復職。13年厚生労働事務次官。15年退官。困難を抱える若い女性を支える「若草プロジェクト」呼びかけ人。累犯障害者を支援する「共生社会を創る愛の基金」顧問。伊藤忠商事社外取締役。著書に『私は負けない』『公務員という仕事』など。