新書大賞2021 大賞受賞・斎藤幸平先生 講演動画を公開中!

小島慶子✕林 香里 人気広がるフェミニズム、変われないジャーナリズム

小島慶子(エッセイスト)×林 香里(東京大学大学院教授)

潮目が変わった二〇一八年

小島 二〇一七年にSNSに端を発しハリウッドから世界に広がった「#MeTooムーブメント」は、韓国などと比べると、日本では残念ながら大きな盛り上がりに欠けました。
 しかし、その年の秋に伊藤詩織さんが『Black Box』を出版し、そこからネット上で著名人がセクハラやパワハラ被害について語るようになりました。
 人気ブロガーのはあちゅうさんが、大手広告代理店「電通」でセクハラやパワハラを受けたことを告白したり、写真家の荒木経惟氏さんのモデルとなったKaoRiさんによるセクハラの告白もありました。
 翌年には、当時の財務事務次官による、テレビ局の女性記者に対するセクハラ事件が明るみに。記者が、社内では黙殺されるかもと週刊誌を通じて告白したことは、メディアで働く女性がいかに過酷な性差別や性暴力に甘んじながら働いてきたかを世に知らしめました。それを機に、セクハラに耐えてきたメディアで働く女性たちが組織を超えて連帯し、及び腰だった男性上司たちに対して、この問題をきちんと取り上げるように一斉に声をあげたのです。
 さらに、日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル事件、スポーツ界や企業でのパワハラ事件など、これまで職場や学校で、時には家庭の中でも「そんなものだ」とされてきた理不尽な人間関係について、「これはハラスメントだ」という認識が広がり、報道され始めました。
 振り返ってみると、二〇一八年は理不尽な慣例に異議を唱え、人権を尊重し、いままで耳を傾けてこなかった少数者の声に耳を傾けようという空気が醸成された、大きな潮目の年になったと感じています。

 私もそう思います。欲を言うと今後は、ハラスメント被害に遭った方や、抑圧された女性たちをどう救うかという課題とともに、多様性を尊重する社会こそが、豊かでよい社会なのだという確信を持てる社会にしたい。かわいそうな人を助けてあげるという上下関係ではなく、横に並んで連帯して、いろいろな体も性も心もあることを認め合うことが、社会にとって重要なのだという意識がまだ弱いですね。

1  2  3  4