小島慶子✕林 香里 人気広がるフェミニズム、変われないジャーナリズム
生意気、でしゃばり、ヒステリー
小島 女性が異議を唱えたり、意見を表明したりすると「叱られた」と捉えるか「ヒステリー」と捉えるかどちらかで中間がない。主体的な女性に対して男性が抱く恐れが「被告席」のイメージになるのでしょう。
一九九〇年代にテレビでフェミニズムを語っていた田嶋陽子さんは、当時イタいキャラクターとして扱われていました。上野千鶴子さんも「怖い学者さん」という印象で切り取られる。メディアによって「主張する女性は異端」というイメージが作られ、強化されてきました。
メディアで女性が発言する際は「ママ目線」「主婦目線」「女性目線」を求められる。女性は女性であることに価値がある、という制作者の無意識のバイアスの表れです。同時に、意図的な抑圧でもある。だからそこを越えて発言する女性は「生意気」「でしゃばり」「ヒステリー」という"キャラ付け"をされます。それを見た女性は、発言することや意見を持つことが怖くなります。
"女子アナ"という役割にも顕著なように、テレビの中で女性に与えられる役割を通じて視覚化されるのは「女性は可愛らしい職場の華であるべきだ」「生意気な女は嫌われる」というメッセージです。それは、ジェンダー格差の大きい日本社会において、女性が性差別的な現状に不満を抱かないようにするための刷り込みとしても機能しています。
林 でもスピードは遅いけれど、少しずつ状況は変わっています。東大でもジェンダーの授業は人気があります。
小島 そうですね。私は大学でゲスト講師を務めることがありますが、ジェンダーの講義は人気が高いとどの大学の先生もおっしゃいます。大学生にはいま「ジェンダー問題が熱い。これは学んでおけ」という意識があるのかもしれません。だからといって、その世代に性差別をする人がいないわけではありませんが、大きな関心事になっているのは良いことですよね。
先ほどもお名前を挙げた田嶋陽子さんも再評価されています。今では「イタかったのは田嶋さんではなく、田嶋さんを笑い者にしていたテレビと、それを見ていた視聴者だった」という見方に変わってきました。
また、私たちのシンポジウムに登壇して下さったLGBTアクティビストの松中権さんは、フジテレビが三〇年前に人気を博したキャラクター「保毛尾田保毛男」を復活させたときに、すぐにフジテレビに申し入れをして、謝罪のコメントを引き出しました。
彼は殴り込みに行ったのではなく、対話を通じて意識をアップデートしてくださいと申し入れました。
テレビやインターネット放送での時代錯誤の差別的表現は未だに散見されますが、「保毛尾田保毛男」の復活に抗議する動きが支持されたのは画期的でした。二〇〇〇年代ならあり得なかったことだと思います。
林 当時はLGBTがほとんど話題にならなかったし、女性の働き方が問題視されることもありませんでした。それに比べて今日を見るにつけ、遅々としているとはいえ、私は希望を持っています。若い女性たちが「私たちはフェミニストだ」と発言するようになってきています。