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四大卒も中小企業を目指せばいい

海老原嗣生(株式会社ニッチモ代表取締役)

 ここで一度、これまでの議論を整理しておこう。
・ブルー・カラー、建設業、農林業、自営業、事務職などの職業は減っている。
・ホワイト・カラー正社員の数は増えている。
・高卒で就職する人が減り、みな大学へ進学するようになった。つまり大学進学率が高まり過ぎた。
 大卒の就職問題に限れば、その責任を、企業の雇用制度にかぶせるのは間違っている。企業が必要とする人員以上に大卒が増えただけなのだ。

 では、ホワイト・カラーになりたい大卒はどこに職を求めればいいのだろう。ブルー・カラーや農業などの職を高卒と奪い合えばいいのか。しかしそもそも枠が減ったなかで奪い合っても、日本人全体の失業率を考えれば意味がない。あるいはリスクを取って自ら会社を起こすしかないのだろうか。超優秀な人はそれで成功するかもしれない。しかし、「普通の人」たちが起業をして、全員うまくいくというプランには現実味がない。

 実は良い解決策がある。今から紹介する数字にぜひ注目してもらいたい。まず、従業員一〇〇〇人以上の大手企業における大卒求人倍率は、この一五年間、〇・五倍から〇・八倍の間を行き来している年がほとんどだ。これをもって「就職氷河期」と名付けられたわけだ。しかし、一方で、従業員一〇〇〇人未満の企業に目を向けてみると景色が変わって見える。なんとこのご時世でも、新卒求人倍率は二・一六倍という高倍率なのだ(リクルートワークス調べ)。三〇〇人以下の企業に限れば実に四・四一倍。そう、実はホワイト・カラーの職はまだまだ空きがある。中小企業のホワイト・カラーに対する需要は満たされていない。つまり、今の大卒者が就職難に陥っている問題の真の肝は、増え過ぎた大卒者が中小企業の求人とミスマッチを起こしていることなのだ。

「わからない」から嫌だ

 大学を卒業したら中小企業に勤めよう。このように話すと、よく「中小企業は経営も安定してないし、給与も安い。コンプライアンス的にもやばい。そんなひどい労働環境で我慢しろということか」と反論される。しかし、これも、ここまで紹介してきた「若者はかわいそう」論と同じで、誤った常識の一つだ。とにかく落ち着いて次の三つのことについて考えてみてほしい。

 まず、日本人のどの年代を取っても、中小企業に勤めている人が圧倒的に多い。だから中小企業に勤めるのは普通だということ。

 二つ目は、中小企業はどこも働くに値しないと考えるのは、中小企業に失礼だということ。確かに平均値で見ると、売上高などの経営数字にしても、給与水準などの従業員待遇にしても、すべての数値で中小企業は大企業より劣っている。しかし、平均値ではなくて上位企業を見るとどうなるか。実は、営業利益率一〇%以上の企業比率は、従業員数一〇〇〇人以上の大企業よりも、中小企業のほうが一・五倍も高い。二○%以上だと、中小が大企業の三倍となる。つまり、中小企業のすべてが悪いわけではないのだ。将来性の面から見ても、仕事のやりがいという面から見ても、優良企業はたくさんある。中小企業の数は一七○万社にものぼるので、仮に一割が優良企業だったとしても、一七万社。大変な数だ。

 三つ目は、「新卒採用する」ということの意味についてだ。新卒採用に手を挙げるということは、数年間は戦力にならない人を採用して、「育てます」ということである。余裕のない企業にはまず無理だろう。企業規模で考えてみても、総従業員数が二〇人や三〇人の企業は、あまり新卒を採用しない。新卒採用に力を入れているのは大抵一〇〇人以上の企業だ。この規模になると、中小といっても、コンプライアンスもしっかりした企業になる。おかしな雇用体制を採っていれば労働基準局にもにらまれるし、経理面では税務署の目も厳しくなる大きさだ。つまり、新卒採用をしている中小企業は、平均的な中小企業よりも格上の可能性が高いのだ。

 どうだろう。こうした「まともな」企業に対して、学生がそっぽを向いているという状況こそ是正しなくてはならないとは思わないだろうか。

文部科学省が諸悪の根源!?

 もし、「この新卒無業という状況を作り出した犯人を探せ」と無理やり迫られたとしたら、私は何と答えるか。おそらくこうだ。大学を作り過ぎただけでなく、その結果当然起こる大学生余りに対して、効果的な施策=大学生を中小企業に誘うことを本気で考えてこなかった文部科学省にこそ責任があると。

 就職は個人的な活動であると同時に、社会システムの一つである。そうであるならば当然、そのシステムが円滑に働くかどうかは国の施策にかかっている。では民主党政権の就職支援はどうなっているのか。

 当初、民主党の就職支援はフリーター対策に絞られていた。私は「傷を負ってから止血をするより、怪我をしないように予防するほうが良いに決まっている。つまり、フリーターになってから慌てるよりも、新卒のうちに企業とマッチングさせることにお金を使うべきだ」と同党議員にマスコミ討論等で訴えていたので、まるで納得できなかった。しかし、二〇一〇年になって風向きが変わる。菅首相が就職支援を強調し始め、実際に新卒雇用対策として三〇〇〇億円の予算もついたのだ。中小企業と学生のマッチングを最優先の課題と考える私としては、とにかく「第一歩を踏み出した」ことを素直に喜んでいる。

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