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日本型雇用がダメなのか 大学生がダメなのか

海老原嗣生(株式会社ニッチモ代表取締役)×城 繁幸(「Joe's Labo」代表取締役)

でも結局、最大の問題は、「終身雇用がいいか/悪いか」ではなくて、「雇用規制によって企業が終身雇用を強制されているのか/企業が終身雇用を自発的に選んでいるのか」なんです。一見どちらも同じことのようですが、そこには雲泥の差がある。まず、入口が変わります。企業は終身雇用でなくてもいいとなれば、面白そうな人材なら「とりあえず採用してみる」ことができます。絶対に何十年間も雇用し続けなければならないという縛りがある中での採用に比べて、はるかに多様な人材を採用するようになるはずです。また、あきらかに芽のない人を腐らせる前に外に出すことができる。これは企業にとっても、雇用される個人にとっても良い話のはずですよ。社会の活性化にもつながりますし。

海老原 結局、城さんは、口では厳しいことを言いながら、今の日本の企業にすごく期待しているんですよね。僕は「変われる」なんて期待していない。そこが一番の違いかもしれない。

 教育方針で言えば、僕はスパルタ教育で、海老原さんは自由放任教育ということかもしれませんね。

今は就職氷河期なのか?

海老原 ちょっと視点を変えましょうか。城さんは、今の「超・氷河期」と言われる就職状況をどう見ていますか。

 氷河期なのは間違いないですね。二〇〇〇年の氷河期よりもひどい状況だと思います。ただ僕は学生たちに、「氷河期と思うな!」と言っています。つまり「氷河期」という言葉を使うと、また温暖期が来るような気がしてしまいますが、もう温暖期は絶対に来ませんから。

海老原 永久氷河期だと?

 ええ、そうです。そしてその原因は「新卒バブルの崩壊」だと考えています。新卒学生が大学の名前だけでグローバル企業に入れた時代はもう来ない。二〇〇〇年前後と比べると、求人数も求人倍率も今年のほうが恵まれています。けれども内定率が低い。なぜ企業が人を採らないかというと、ようするに、企業が日本を見限ったんですよ。
 日本には「構造改革が進まない」「財政がほぼ破綻している」という問題に加えて、「ポスト終身雇用制度」の仕組みを政治も企業も打ち出せなかったという大きな問題があります。企業の経営者も多くは単なるサラリーマンですから、こんな社会全体を揺るがすような大問題に自分なりの答えを出せる人はそういない。それで彼らは答えを出す代わりに、日本型雇用がない世界に移っていったというわけです。
 だから学生たちには昔のことはきっぱり忘れて、とにかく採用してくれる企業に入って、社会人としての実績を積みなさいと言いたい。先ほど少し話に出た「三年以内既卒者採用拡大奨励金」にしても、この奨励金のおかげで多くの企業が「それなりの人数は採るつもりだ」とは言っています。ただし、留年して企業回りをやっていた学生は採らない。NPOなりNGOなりに入って、そこで社会経験を積んできたような人を採りたいと言うんですね。

海老原 六割ぐらいは同意見です。まず、「新卒バブルが崩壊した」という認識は、まったく一緒です。ただバブルが崩壊した大きな要因として、「大学生が増えすぎたこと」ははずせないと思います。二〇年前に比べて、若年人口が四割減っているのに、大学生は五割も増えたわけだから、あぶれる人は多くなる。誤解を恐れずに言えば、人口が減って学生が増えれば、当然、学生の「質」も下がってくる。
 就職問題は、この増えすぎた学生と、日本型雇用の両方に問題がある。ただ、日本型雇用の被害者は案外、少ない。それは、上位校を出たエリート学生と超大手企業という少数の問題だ、と。
 城さん、これは腹を割ってお話ししたいことなんですが、僕は城さんが、四、五年前に「ハイエンドの救世主」だった頃の印象が一番鮮烈なのです。あの「エリート校を出た人たちが、たまたま今年は不況だという理由で、優良企業に入れない。これはかわいそうだろう」と言っていた頃の城さんです。今の城さんは、オールラウンドに支持が増えて、旗幟不鮮明になってしまったんじゃないですか。(笑)

 まあ、くわしくはわかりませんが、そうかもしれないですね。(笑)

海老原 それで切れ味が落ちているんじゃないですか。たとえば、一部上場の超優良企業がいくら「既卒三年以内の学生を採る」と言っても、無名大学の学生は容易に採用しませんよ。つまり、いまフリーターになっている多くの無名大学生が救われるとは思えない。それなのに期待を持たせるようなことを言ってはまずいと思うんです。
 僕が大学を卒業した一九八〇年代の後半は、バブルの真っ只中でした。でも当時から、無名大学の学生は就職難でしたよ。コント赤信号のギャグに「亜細亜大学を出たら旋盤工にしかなれない」というものがあったほどです。でもその亜細亜大学は、今では一目置かれる大学となっています。つまり、あれから二〇年のうちに、この国では、下にウイングを広げて、大学を三〇〇校も作ったわけです。日本型雇用を破壊できたとしても、それは、「日本型雇用に凝り固まった超大手」の話だから、そこに入れる難関大学卒者の待遇改善であって、ボリュームゾーンの一般大学生にとっては、まるで関係ないことじゃないでしょうか。

 確かに企業にも、「大学」と判断する基準があって、MARCHが一つのラインですね。それ以下の大学を、企業側は「大学」とは見做していない。それが現実です。だから、僕はそもそも大学に行く必要はないと思っているんです。政府からの大学助成金も必要ありませんよ。学生が集まらないような低レベル大学はどんどん潰したほうがいい。

海老原 そういう大学全般に二人ずつカウンセラーを置かせるなど、新卒対策という名の税金がつぎ込まれているのを見ると、イライラしませんか。

 就職問題に関して、「優秀な学生もたくさんいて、優良企業もたくさんあるけど、ミスマッチになっている」と考えている人は多いですが、それは一面でしかないでしょうね。企業から見て「優秀な学生」とは言えない人がたくさん余っているのも、否定できませんね。

海老原 なんか、そういう発言には昔の城さんを感じます。(笑)

 その人たちは、「頑張って就職活動をすれば優良企業が自分たちを採用してくれるかもしれない」と思っているけど、そんなことはありません。だから、まずは入れる企業に入る。そしてキャリアアップしたいのなら、社会人としての実績を積むしかないのです。

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