日本型雇用がダメなのか 大学生がダメなのか

海老原嗣生(株式会社ニッチモ代表取締役)×城 繁幸(「Joe's Labo」代表取締役)

 若者はかわいそうなのか、若者はダメなのかと聞かれれば、かわいそうだと思います。民主党が公務員の人件費を二割減らして何をするのかと思ったら、新卒採用の凍結でしょう。あるいは三〇〇〇億円の予算を付けて、新卒採用を支援すると言いつつ、自分たちは新卒採用をしないというのは、マッチポンプ以外の何物でもないですよね。そういうのを見ると、かわいそうだなと思います。
 賃金の面から考えても「得をしている」とはとても言えないですね。日本で生涯賃金をもっとも左右する要素は卒年度です。これは揺るぎない事実です。残念ながら、去年、今年、来年に、世に出る彼らは、戦後でもっとも貧乏くじを引く世代になる。あくまで平均値の話ですが。
 ただ、「若者はかわいそう」と言っていると、たまに「お前は共産主義者なのか」と言われるんです。もちろんそんなことはありません。僕は「完全に自由競争ができる仕組みを整えよう」と言いたいだけです。競争の結果、世代間であろうが若者の間であろうが、格差が出るのは仕方がない。出てしまった格差をどうケアするかは、雇用の問題ではなくて、社会保障の問題だと思います。

海老原 僕はこう考えているんです。確かに、富の六〇パーセントは六十五歳以上の老人が持っています。若者は人数が少ない。でももし、老人産業が活性化すれば、お金を払うのは多数の老人で、受け取るのは少数の若者。これは一気に好循環にひっくり返る可能性がある。つまり、若者を救うには、国なり企業なりががんばって、老人ビジネスをつくることだと思うんです。たとえば、「死ぬまでに一度、ファーストクラスに乗りましょう」キャンペーンとか、極論すれば「老人風俗」なんていうのもあってもいいか、と。老人がもっとお金を使う仕組みです。その方向から考えていくと、一番に手を付けなくてはいけないのが、介護と医療ですよ。介護と医療は、混合介護・混合診療が認められていません。つまりお金に余裕がある人が、保険料金にいくらか上乗せすることで、より良い医療や介護を受けることができない。完全に保険内か、完全に保険外かのどちらかです。これはもったいない。もし混合形態が許されれば、金持ちの老人たちは医療と介護にもっとお金を使うでしょう。そうすると産業全体が活性化する。働く若者の給料も上がって、今の介護のような悲惨な労働環境も改善されるはずです。
 それでここからが本題ですが、給料が上がると、その産業に人が流れます。たとえば介護産業が大きくなると、IT産業や自動車産業、電気産業などから、人が流れます。すると、その産業の雇用枠に穴ができる。その枠に「俺、介護は無理だけど、電気工場で働くならできる」という人が埋まります。民主党は、「介護で雇用をつくる」などと言いますが、今失業している「対人折衝が苦手」な人は、介護のようなハイレベルのコミュニケーション能力を必要とする仕事など好まないでしょう。でも、介護産業を大きくすることで、別の対人折衝を必要としない仕事の枠が空くから意味があるんです。

 失業者には農業をやってもらいましょうという話もそうですね。発想が、昔のソ連の五ヵ年計画と同じです。雇用の効率化は、市場原理を使わないで達成できるわけがありません。でも、政治家がそれをまるでわかっていない。

海老原 政治が雇用メカニズムをきちんと理解していないから、国民にも施策の意図が伝わらないんですよね。

社会保障と雇用をわけてくれ!

 政治の話が出ましたが、結局、国のすべきことは、社会保障機能です。今は、「終身雇用」というかたちで企業に丸投げしている状態です。終身雇用はあきらかに民営化版の社会保障ですよ。国はそれをなるべく早く取り戻して、雇用を含めた経済活動と社会保障を切り離してもらいたい。企業も商売をしているわけだから、社会保障分も含めて考えて、企業にとってプラスになりそうな人しか採用しない。それが結局、格差の原因になる。だから格差を是正したいなら、「終身雇用を守れ」ではなくて、社会保障機能は国が受け持つから、企業はもっと自由に雇用してくれ、とするのが一番いいんです。

海老原 雇用と社会保障をわけて考えるというのは、まったく賛成です。フリーターになってしまう人のなかには、結構な割合で精神的に疲れている人たちがいます。そういう人たちに必要なのは、雇用対策ではなくて、社会保障なんですね。つまり大学を出たけど不況で就職できないという問題と、精神的に疲れてしまって働けないという問題はまったく別です。雇用創出に助成金を入れたら、まとめて解決されるという話ではありません。
 でも城さん、そうすると問題は、今の日本社会で起きていることに対する政治家の理解能力・説明能力の低さじゃないですか。介護産業と失業者の関係にしても、大学乱立と就職氷河との関係にしても、まるでトンチンカンです。ほかにも非正規雇用に対するあまりに間違った解釈も目立つ。一七〇〇万人いる非正規社員は、主婦が九〇〇万人。学生が一一〇万人。五十五歳以上の退職→再雇用組が四〇〇万人。つまり、「あえて正社員を希望しない」人たちで、その八割をしめています。非正規を狭めれば、こうした主婦・学生・高齢者の雇用が極端に減る。にもかかわらず、弱者の味方のはずの社民党や共産党が非正規雇用の規制を猛烈に進めようとしていたりします。

 そうですよね。でもなぜ共産党は、派遣社員を増やすことに反対なんですかね。弱者の味方と言いながら、一番弱者の首を絞めています。あの政党は何をしたいのか本当に理解できません。

海老原 「非正規は不安定だ。だから、解雇補償を拡充させ、無茶な企業や危ない派遣事業主を退出させる」。そんな規制ならよくわかるのですが......。今の城さんは貧しい人たちにも人気がありますよね。いっそ共産党の向こうを張る政党をつくってみてはどうですか。党名は「本当の共産党」、それとも流行に倣って「僕らの党」なんていうのもいいかもしれませんね。
(了)

〔『中央公論』2011年4月号より〕

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