福島原発事故は政府による災害だ
「阪神」の比ではない
田原 あの地震のときには、どこにいらっしゃったんですか?
石破 名古屋にいました。その二日後が、解散した市議会議員選挙の投票日だったのです。事務所で講演中でしたが、かなりの揺れでした。その後、会合の予定があった新潟にはたどり着いたのですが、直接東京に戻ることができず、大阪に一泊して翌朝の飛行機で帰ってきて、党本部に直行しました。
田原 テレビで災害の状況を見たときの第一印象は?
石破 私は議員として阪神・淡路大震災(一九九五年)を経験しているのですね。衆議院だと当選六回以上になりますから、そんなに多くはいない。いやでもあの震災と比べてしまうのですが、地震もさることながら大津波の映像を目にして、これは現在生きている日本人が経験したことのない大災害に違いないと直感しました。
田原 党本部に戻ってきて、まずやったことは?
石破 震災発生直後にできた党の地震対策本部に入り、野党の立場でできることは何なのかを検討しました。政府との違いは、今もお話ししたように、自民党は与党として「阪神」の復興を直接マネジメントした経験を持つこと。今回の被災地はもとより、北海道から沖縄まで地域にきちんとした組織があるのも民主党との違いです。各自治体でも大半は与党ですから、首長さんからの情報提供や支援の申し出などもどんどん集まってくる。
時々刻々の情報は政府が掌握しているはずですから、我々としては、そうした知恵や経験や組織力をフル活用して、救援、復興を全力でサポートしようと決めました。むろん、復興に関しては政府に全面協力する。意見すべきことは言う。
甘かったリスク評価
田原 民主党とのやり取りや復興対策についてはあとでまた話していただくとして、今回は地震・津波の被害そのものもさることながら、福島第一原発で事故が起こってしまったことが事態を複雑にしました。この点も「阪神」との大きな違いです。事故の一報を知ったときには、どう感じました?
石破 我々は東海村JCO臨界事故(一九九九年)や、新潟県中越沖地震(二〇〇七年)時の柏崎刈羽原発の事態も与党として経験しています。大きな地震などに見舞われた場合、原発は原子炉の停止→冷却→放射性物質が飛散しないよう封じ込める、という手順で、安全が確保される仕組みになっています。柏崎はこのシステムが完璧に作動したために、放射能汚染などの問題は起こりませんでした。今回も、あれだけの大きな地震だったにもかかわらず、制御棒が作動して発電が停まったということでしたので、少なくともチェルノブイリのように炉心が爆発して高濃度の放射能が広い範囲に拡散するといった最悪の事態にはならないだろうという認識は、当初からありました。
ただ、まさか冷却装置の非常用電源が働かなくなるとは......。原発は、何らかの障害や誤操作などがあった場合に必ず安全側に制御する「フェールセーフ」機能に完全に守られていると思っていたので、燃料が流されディーゼル発電機が使用不能になるなどの事態は、まさに想定外。
田原 石破さんから見ても想定外?
石破 一九八五年に御巣鷹山にジャンボジェットが墜落したときにも、当初は「安全なはずの飛行機がなぜ落ちたんだ」という議論になりました。調べてみたら、過去に機体の後部を滑走路にこする尻もち事故を起こしていて、ボーイング社の修理が不完全だったことが、事故につながった。システムは完璧でも、人間がミスをすると想定外のことが起こる。
田原 明治二十九年(一八九六)の三陸沖地震では、やっぱり一四、五メートルの津波が来たという記録が残っています。岩手沿岸での話ではありますが、福島第一原発をつくるときに想定した最大の津波が四〜五メートルというのは、甘かったのではないですか?
石破 その点は認めざるをえませんね。私は今回の震災を機に、リスク評価のあり方を原発に限らず根本的に考え直してみる必要があると感じています。
終戦直前の一九四五年に愛知県で三河地震が発生し、二〇〇〇人を超える死者が出ました。何万年も動いたことのない活断層がずれた結果です。従来のリスク評価は、えてして「何年に一回」という尺度が幅をきかせていた。でも、本当は「何年に一回」という確率と被害規模の掛け算でなければならないのです。時間軸は「一〇〇年に一回」「一〇〇分の一」であっても、通常の地震や津波の一〇〇倍の被害に襲われるのだったら、答えは「一」なのだから。
リスク評価の誤りは、なにも民主党政権に始まったわけではありません。自民党時代だって、財政事情が厳しくなるなかで、防災対策を政策の最優先課題には挙げにくくなっていました。その点は率直に反省する必要があります。ただその上で、民主党が掲げる「コンクリートから人へ」というスローガンには、やはり強い違和感を禁じえないのです。
田原 事業仕分けなどの際に、盛んに言われた。国民の受けも悪くない。
石破 予算は厳しい、「無駄な公共事業」が多いということで......。しかし、今回の地震・津波災害は、そのスローガンの危険性を示したとも言えるのではないでしょうか。