福島原発事故は政府による災害だ
田原 今の民主党には、仙谷さんしかいませんね。
石破 彼に会って、発表の仕方を、被災者、国民、海外など聞く側からみたらどうなのかを基準に検証し、一新すべきだと申し上げました。自らの責任回避ではなく、国民がどう思い、行動するのかを第一に考えるべきだと。
田原 仙谷さんは何と?
石破 「今の情報発信は内向きだから、改める必要がある」と。やはり問題は感じておられたようです。
田原 さきほどホウレンソウの話が出ましたが、福島や北関東産の野菜、原乳の一部が出荷制限を受けました。この判断についてはどのようにお感じになりますか?
石破 結論を言えば、出荷停止は間違いだったと思います。人体に影響を与えるような汚染のレベルにはほど遠いのに、結果的にあの地域の農畜産業を全滅させかねない話になってしまった。
二〇〇八年に発覚した「事故米」事件のとき、私は農水大臣でした。あのときは「ごくわずかでも人体に影響を与える可能性があるものは、全量焼却処分にする」と宣言して、事態を収めました。それをやったときの影響の範囲は限られていたんですね。しかし、今回はあまりにも対象が広く、影響は甚大。基準を少しでも超えたら全量出荷を止めるというのは、正しい判断ではなかったと思います。
入閣を蹴ったのはなぜか
田原 福島第一原発では、自衛隊、警察、消防、東電などがタッグを組んで、必死の「冷却作業」を続けています。他方、政治の世界に目を転じると、団結にはほど遠い。今こそ民主も自民もなく国難に対処すべきだと思うのですが、この前も副総理として入閣してほしいという菅さんの申し入れを、谷垣さんは断った。
石破 最初にも申し上げたとおり、自民党には知恵も経験もあります。そう公言しながら、手を貸してくれと言われればにべもなく断るのはどうしてかというお叱りは、山のように頂戴しています。でも、私たちからすれば、知恵や経験を生かせる提案を、なぜしてくれないのかということなんですよ。
田原 僕の口から言いましょう。谷垣さんに入ってほしいと言うのならば、菅さんも必死でやるという気持ちを形で示してもらいたいということですね。入閣には条件があるのだ、と。
石破 そうです。例えば、民主党はこの期に及んでもなお、マニフェストに掲げたいわゆる4K(子ども手当、高速無料化、農家の戸別補償、高校授業料無償化)をやるんだと言っています。もはや、個々の政策の是非が問題なのではない。この緊急事態に際して、「不急」の政策はとりあえずあとに回して、早急に必要な現場にお金をつぎ込むのは当然の話でしょう。
田原 菅さんは「この事態に鑑みて4Kはすべて当面棚上げにする。その分を東北に最優先に回す」と言えばいい。
石破 加えて、もし民主と自民が中心となる「救国連立」ができるとしたら、それは震災復興のためだけの連立ではないはずなのです。もしあの大災害がなかったら、今ごろ新聞は連日リビア情勢一色になっていたでしょう。仮にイラクのような状態になったら、自衛隊を出すのか出さないのかといった話にまでなっていたはず。
もう一つ。もし4Kをやめたとしても、復興に必要な金額にははるかに及びません。財政が苦しいなかで、何らかの形で資金を調達する必要があります。無利子無担保国債がいいと言う人がいれば、国債を日銀に引き受けさせろと主張する人もいる。いずれにせよ、議論して結論を出さねばならないのです。
こうした外交、安保、財政といった国の基本路線に関しては、両党間である程度の合意ができていなければなりません。そうした議論抜きに、いきなり「谷垣さんを副総理に」と言われても、受けようがないではないですか。
田原 そういう議論はいっさいなし?
石破 ありません。
田原 石原伸晃さん(自民党幹事長)が岡田さん(民主党幹事長)と会ってマニフェスト路線の変更を迫ったら、「法律は変えられない」と答えたんだそうですね。
石破 私はその話は知りませんが、とにかく「入閣してくれ」という前に、やることがあるでしょうと言いたい。けっして難しいことではないのですよ。4Kはやめて、すべて震災復興に回す。その上で、さらに必要な財政政策などに関しては、政策担当者で詰めてくれと言えばいいんです。民主党は玄葉政調会長、こちらは同じ政調会長の私でいい。玄葉さんとは信頼関係が築けていると思っているので、総理が覚悟さえ決めれば一日で合意を作れる自信があります。はじめからそういう動きになっていれば、今ごろは連立政権ができていたかもしれません。