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苅谷剛彦 オックスフォードからの提唱 教育デジタル化の落とし穴

苅谷剛彦(オックスフォード大学教授)

「ブラックボックス化」への抵抗の場としての大学

 このようなことがコロナ後の高校段階までの教育において加速度的に進行するとすれば、大学教育が果たすべき役割が今以上に厳しく問われることになる。そのようなときになっても、知識伝達の効率性に傾斜する「広く浅い」学びを中心にすることで、将来の日本は立ちゆくのだろうか。

 さまざまな知識を理解するに止まらず、知識間の比較考量ができ、信頼に足りる多様な知識を相互に結びつけ、組み合わせる。そのような分析的で批判的な思考力を育てるには、「広く浅い」学びは不向きである。学習のデジタル化がもたらすブラックボックスの中で教育の画一化が進行するとすれば、それを解毒する場としての大学の役割はますます重要になる(教育のブラックボックス化の中で大学が果たすべき役割については、拙著『コロナ後の教育へ』において検討したので、参照していただきたい)。

 フェイクニュースが量産され、未知なるもの、不確実性が増え続ける時代を冷静に生き抜くためには、批判的思考力を備えた「賢い市民」の育成が不可欠である。それが大学に切実に求められる役割である。それだけに「広く浅い」学びからの脱却が求められる。吉見氏の提案を真剣に受け止めよう。教員の働き方と併せて、カリキュラムの構造を変えていく。それは大学教員にとっても、当初は負担増になるだろう。しかし、そのような教育を実際に経験することで、学生たちの知的な鍛錬が進み、これまで以上に手応えを感じる機会となるはずだ。それは、大学教員に与えられた特権でもある。自分たちのやり方次第で、個々の学生たちの知的な成長を、より具体的に感じることができる。「顔の見える」教育への回帰である(拙著『イギリスの大学・ニッポンの大学』)。

 

〔『中央公論』2021年2月号より抜粋〕

コロナ後の教育へ――オックスフォードからの提唱

苅谷剛彦(オックスフォード大学教授)

教育改革をその前提から問い直し、神話を解体してきた論客が、コロナ後の教育像を緊急提言。オックスフォード大学で十年余り教鞭を執った今だからこそ、伝えたいこと。
そもそも二〇二〇年度は新指導要領、GIGAスクール構想、新大学共通テストなど、教育の一大転機だった。そこにコロナ禍が直撃し、オンライン化が加速している。だが、文部科学省や経済産業省の構想は、格差や「知」の面から数々の問題をはらむという。
以前にも増して地に足を着けた論議が必要な時代に、今後の教育を再構築するための処方箋をお届けする。

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苅谷剛彦(オックスフォード大学教授)
〔かりやたけひこ〕
1955年東京都生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、ノースウェスタン大学大学院博士課程修了。Ph.D.(社会学)。東京大学大学院教授等を経て2008年より現職。『階層化日本と教育危機』(大佛次郎論壇賞奨励賞)、『追いついた近代 消えた近代』(毎日出版文化賞)、『コロナ後の教育へ』など著書多数。
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