斎藤幸平×藤原辰史  コモンの自治管理

斎藤幸平(大阪市立大学准教授)×藤原辰史(京都大学准教授)

消費者運動に意味はあるか

─私たちが消費者として変わることで、少しでも未来は良くなりますか。有機農業の野菜を選ぶとか。

斎藤 消費者の努力ももちろん大事ですが、今の生産流通システムの下では限界があります。むしろ高価な有機野菜を買い続けることができる人と、安い食材に頼らざるを得ない人が分断されているのが現状でしょう。消費者の努力に期待し過ぎると、環境問題に関心のある人が、そうじゃない人から「お金に余裕がある人は、意識が高くていいよね」と言われて終わりになりかねない。

藤原 私の悩みどころはそこなんです。「有機農業が大事なのはわかるけど、ファストフードを食べなきゃ暮らしていけない人だっている」というご批判にどう答えるべきか。私個人としては、安全な食べ物をもっと安く提供する仕組みを作るべきだと考えています。そのために、食べ物の税金をなくす。そもそも、生きるために税金を払うっておかしいですから。さらに、日本に約三〇万ヘクタールあると言われる耕作放棄地をうまく利用して、そこで環境負荷がかからない農業を営むとか。

斎藤 私は、富の再分配が欠かせないと考えます。今の日本は、食べ物が捨てるほどある、すでに豊かな社会です。更なる経済成長を目指すのをやめて、今ある富を再分配し、コモンの領域を増やす。その上で企業に対してもっと安全で安い食べ物を増やすように要求したりする。あとは労働時間を減らして、自分で食べ物を作る時間を増やすこと。食を商品化して、大規模チェーンに依存する現状から抜け出すことです。

藤原 私は食べ物を無料にすれば、もっと芸術・文化に新しいものが生まれるという仮説を立てているんです。失敗して食いっぱぐれる心配がなければ、いろんな挑戦ができるはず。そういう食料特区を作ってみたら、面白い世界ができるんじゃないかと妄想してしまいます。

─政府が検討するベーシックインカムに対して、藤原さんのご提案は「ベーシックフード」ですね。

藤原 実は他にも、「ベーシック田んぼ」という思考実験をしてみたことがあるんです。耕作放棄地を年収が足りない人に使ってもらって、現金収入を補ってもらう。まだ答えは出ていませんが。斎藤さんはどうですか。資本主義に代わる未来を考えるとき、GDP(国内総生産)以外にどんな指標があるといいですか。

斎藤 有名なのは「GPI(Genuine Progress Indicator=真の進歩指標」)ですよね。一九九五年に米国のNGOによって開発された指標で、個人消費をベースに、所得分配や家事・ボランティアなどを加え、犯罪や公害といったマイナスの指標も取り込んでいます。脱成長派の経済学者ハーマン・デイリーをはじめ、実証的な計算結果も随分と出ています。

1  2  3