東大・大人気「ジェンダー論」教授、「森発言のどこが悪い」派に伝えたいこと
橋本、小池、丸川─女性リーダーの役割
─今の日本政治の女性登用について、どのように評価していますか。
論外ですね。人口の半分を代表しない政治というのは、意思決定、もしくは政策の優先順位付けなどどこかで歪みが生じるはずです。待機児童問題へのアプローチも変わるでしょう。象徴的なのは最近、自民党内でも議論になっていた選択的夫婦別姓。これに関する最高裁判所の判決において、女性判事三人は全員違憲との判断でした。あの場が男女半々だったら、違憲になっていた可能性が高かったと思います。
逆に言うと、今回の森発言が起きた時、当事者である四者(東京都、IOC、組織委、政府)のトップの半分を女性が占めていたことは僥倖でした。希有な巡り合わせですが、その程度には女性もトップの地位にいるようになっていたわけです。日本の組織では、なかなかないパターン。
小池百合子都知事は森発言を受けて四者会談に「私は出席しません」と言った。これは見事な発信でした。また、橋本聖子東京オリパラ担当大臣(当時)は男女共同参画担当大臣も兼務していました。菅首相・二階幹事長のような男性と比べて、やはり彼女たちは女性の違和感を届けた。森発言をきちんと批判しており、そういう意味でよかったと思います。
─橋本さんは組織委会長に、オリパラ担当大臣の後任は丸川珠代氏になりましたね。
国際社会への発信として、日本の最低限の自浄作用を示すことができました。
知名度があって一定の発信力があり、経験も豊富という意味では、橋本さんのような人でないとだめだろうなと思っていました。また、オリパラが開催できなかった時、無観客になった時、アスリートに向かって説明できるのはアスリートだけです。
「リーダーは性別や年齢などの属性に関わりなく、能力で選ぶべき」という人もいます。これは正論なのですが、今回は女性差別問題があったのだから、それに対して女性を後任に充てて是正したというメッセージを発信すること自体には意味があると私は思います。また、女性だからといって、たとえば性的マイノリティに差別的な杉田水脈衆院議員のような人物は不適切でしょう。その女性の発言、能力を評価して起用するべきであるのは言うまでもありません。
私の見ている限り、橋本さんがどの程度、男女共同参画について理解のある人なのかはよくわからないのですが、少なくとも森氏のようなとんでもない失言はない。これから、拾えてこなかった女性の声をどれだけ拾えていけるかが課題になるでしょう。
いずれにせよ、今回の後任会長は誰がやっても批判される、難しい舵取りを迫られるポストです。「だから女は......」という批判が、今後起きかねないと危惧しています。
また、丸川大臣に関しては、元五輪相で、女性でという意味では無難、と思っていたら、なんと選択的夫婦別姓反対派とのこと。男女共同参画担当相は外すべきです。結果として日本側のトップが三人とも女性になったのは、喜ばしいことですが。
〔『中央公論』2021年4月号より抜粋〕
1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。北海道大学文学部助手などを経て、2009年より現職。この間にソウル大学に留学、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員。専門はジェンダー論。『お笑いジェンダー論』など著書多数。