SUUMO副編集長「若者は"その都度最適"と"資産性"で家を選んでいる」

笠松美香(SUUMO副編集長)

住宅開発と家族の変遷

――まずは時代とともに変化した、若者の家に対するイメージについて教えてください。

『中央公論』の読者層と重なるでしょうが、20代の若者の親世代は、今の50、60代にあたるかと思います。50、60代は、その少し上の世代同様、家を「家族」が暮らす安住の場としてとらえ、家を持たなければ一人前ではない、いずれは構えたい「一国一城」という目標としてイメージしてきました。一方20代は、家という空間を、友人と交流したり、仕事をしたり、よりオープンで半公共的な場ととらえ、年配層のように家族が安住するクローズドな場所とはとらえていないようです。若者がそう考えている要因として、最近は、住まいの選択肢が多様に増えていることがありそうです。

 価値観の変化には、その背景として国の住宅政策や、経済状況が大きく影響します。50、60代が家を買ったであろう1990年代から2000年代は、住宅ローン控除による税制優遇など、国が現在も続く持ち家政策を積極的に推進し、デベロッパーもそれに乗って新築供給数がぐんぐん伸びていった時期です。今年、2021年の首都圏の新築マンション供給は3万戸台前半と予想されていますが、ピークとなっていた2000年には10万戸近くが作られていました。

 また、1993年に住宅ローン減税の対象となる面積要件が、それまでの40㎡以上から50㎡以上に引き上げられたことや、広い住宅の供給が増えたこと。90年代、00年代は建築技術や資材のレベルが上がったことから、広い住宅や手ごろで居住空間の整った住宅が増えました。つまり今の20代は、物心がついたころから恵まれた水準の持ち家に住んできた世代でもあります。それもあってでしょう、今の20代は、他の世代より住宅購入意向が高く出ています。

 住宅は80年代から00年代まで大量供給されてきましたが、その背景には、まずは私鉄各社の沿線の住宅開発があります。住宅地が都心部から郊外に広がっていき、ニュータウンと呼ばれる新しい街が作られていきました。また、各種工場の海外移転も一因です。企業が人件費の安い中国や東南アジアなどに生産拠点を置くようになり、かつては都市部にもあった工場や倉庫の跡地をデベロッパーが買い取って、マンションや住宅地へと転換していきました。当時はマンション専業の独立系デベロッパーも多く、これらの住宅開発業者が大量に住宅を作っていった。住宅開発が消費者の需要を喚起し、不動産価格が高騰、値上がりの見込まれる土地を担保にさらなる投資が行われて......。ご存じの通り、その循環を繰り返してバブル景気が生まれ、そして崩壊しました。

 近年は中古住宅の流通量が新築を上回っていますが、当時は新築が中心のマーケットで、発売されると、「今買わなければ、買いそびれる」という前のめりの空気感が消費者の間にあり、「我先に」と住宅を買い求めました。当時は景気が良かったのでローン金利も、変動の基準金利でバブル期(86~91年)の最高が8・5%、90年代は大体3~4%で推移していました。最近は、2016年に始まった日本銀行のマイナス金利政策もあって、フラット35(35年固定)で1・3%前後、変動金利に至っては0・4%前後で推移していますから、驚くほどの低金利になっています。

――家族観や働き方も、住まいに影響しているのでしょうか。

 はい、80年代、90年代は、都市部の女性は出産後に専業主婦となって家庭に入る人が多く、共働き家庭は40%台でした。そのため家は妻が子育てをする場所というイメージが強く、都心から遠く離れた郊外に、夫の収入だけで頑張って一戸建てを買い、通勤に片道1・5時間、2時間かけることも少なくありませんでした。一方現在は、共働き世帯は6割超、若い世代に限ればさらに高く、夫婦でペアローンを組んで住宅を購入するケースが増えています。夫は残業や長時間通勤を我慢し、子育ては妻に任せていた時代とは違い、夫婦ともに職場へ通いやすいかどうかや、協働して家事・子育てをすることを前提とした間取りの家事動線など、ライフスタイルの変化が住宅選びに大きく反映されています。

 先述した通り、かつては家を買ってこそ一人前と見る向きがありました。それは、国も高度経済成長期に打ち出していた「住宅双六(すごろく)」という言葉にも表れているでしょう。結婚したら賃貸マンションに住み、子どもが生まれたらもう少し広い公団や公社、アパートに移る。分譲マンションを経て、最後のゴールは郊外の庭つき一戸建て、というライフコースです。これは団塊の世代、地方から都市圏に出てきた人々に強く訴えるものでした。

 一方で最近の若者は、住まいの選択肢が多様になり、家を買うことは「成功の証」と見る親世代の単一的な価値観を、むしろダサいととらえているように感じます。

中央公論 2021年12月号
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笠松美香(SUUMO副編集長)
〔かさまつみか〕
1996年リクルート(現:株式会社リクルート)に入社。編集、商品企画を経て2018年より現職、SUUMOリサーチセンター研究員を兼任する。

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