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佐藤 信 オンライン婚活プラットフォームの現代史

佐藤 信(東京都立大学准教授)
写真提供:photo AC
 ユーザ視点のマッチングアプリ論は少なくないが、サービス提供者の視点だとどのようなことが言えるのだろうか。ユーザの数(プール)がなければ始まらないこの事業は、街でビラ撒きをして人を集めることもあったという。佐藤信・東京都立大学准教授が論じます。
(『中央公論』2022年12月号より抜粋)

急増するオンラインでの出会い

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 米国では2017年の時点で異性カップルの4割がオンラインで出会っていた(図1)。オンラインでの出会いは、フェイスブックやツイッターのような一般的なSNSを経由することもあるが、「Match.com」や「Tinder(ティンダー)」のようにデーティング・プラットフォームと呼ばれるサービスが広く利用される。今や米国人の3人に1人がデーティング・アプリを使っている。米国では4割が婚外子なので(フランスでは6割、日本では2%)、結婚の意味合いは日本と同じではないが、既婚カップルにも同じような傾向があると考えられる。

 こうしたサービスは、ユーザが自らのプロフィールをデータベースに登録し、アルゴリズムの助けを得ながらお互いに繋がり合う場(プラットフォーム)である。具体的な繋がり方はプラットフォームによってさまざまだが、希望する条件を入力して相手を絞り込んだり、興味のある相手に「いいね」という印を送り先方からも反応があって初めてメッセージの交換が可能になったりするものが多い。そして、その検索だったり、「いいね」だったり、メッセージだったりに課金が必要なこともある。オンラインなので、これまで訪れたこともない土地の人と結びつくことも少なくない。

 日本ではどうか。米国とは比較にならないものの、徐々に浸透してきたことは間違いない。リクルートブライダル総研の婚活実態調査によると、その年に結婚した者のうちオンライン婚活サービスを利用した人の割合は、13年に2・0%だったのが、15年には3・4%、19年には6・3%にまで上昇していた。

 さらに20年以降、新型コロナウイルス感染症の蔓延が結婚に向けた出会いの光景を一変させた。従来、日本では職場や学校での出会いや友人による紹介(合コンもこれに含まれると考えられている)が出会いの機会の大部分を提供してきたが、職場でも学校でもオンライン化が進み、飲み会で出会ったり、親しくなったりする場面もなくなった。婚姻数は「令和2年2月婚」以降激減している。

「結婚してから産むべきだ」という社会規範が強く、法的なパートナー制度も用意されていない日本では、他国に比べ、婚姻外の出生が極めて少ない。このため、婚姻減は出生減に直結する。結果として、出生数はコロナ前の19年の約86万5000人から、21年には約81万2000人へと6%近い減少となった。コロナ禍による出会いの枯渇は想定以上に少子化を後押ししている。

 対面での出会いの機会が失われた分、オンラインのプラットフォームは以前にもまして重要になった。海外のデーティング・アプリの状況を見ると、コロナ禍によって一時は打撃を受けたが、20年10月ごろにはダウンロード数はほぼコロナ禍以前並み、ユーザの活動量ではコロナ禍以前を上回る水準に達した。日本も似たような状況にある。

 今年9月、公式統計である出生動向基本調査の最新結果が公表された。注目されたのは夫婦の出会いのきっかけを聞く質問に、初めて「ネットで」という選択肢が追加されたことである。驚くべきことにその割合は13・6%に上った。コロナ禍がどれだけ影響したかは分からないが、オンラインは、今や「友人・兄弟姉妹を通じて」(25・9%)、「職場や仕事で」(21・4%)、「学校で」(14・1%)に次ぐ巨大な出会いの機会になっているのである。

 さて、筆者は19年に刊行した『日本婚活思想史序説』(東洋経済新報社)において、歴史を辿りながら婚活の現在地を示した。本稿で描出するのは、その後ますます急成長を遂げてきたオンライン婚活プラットフォームの現代史である。利用する側の視点が数多く記録されるのに対して、場を供給する事業者の実像は知られていないから、ここではサービス提供者に注目しよう。

 オンライン婚活プラットフォームの構築は、昔ながらの仲人さんには難しいだろう。他方で、純然たるエンジニアがインターネットビジネスの一つとしてスタートするのも難しい。出会いや成婚を手助けするノウハウの不足もあるけれども、そもそもマッチング相手が確保できない。いくらサイトのデザインが美しくても、利用料が安くても、出会う相手がいなければ役には立たない。

 要するに、ITスキルと、ユーザの数(プール)と、できればノウハウとを、どのようにして獲得・提供するかが課題だったのである。これまで、どのような事業者がどのようなプラットフォームを提供し、どのような出会いのかたちが生まれ、消えていったのか。

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