石田光規 最適化・リスク回避を目指す人間関係の行く末

石田光規(早稲田大学文学学術院教授)

選別を加速させたコロナ禍

 人びとがコスパやリスクを意識して人間関係を築くようになるなか、世界はコロナ騒動に巻き込まれた。コロナ禍により、つきあう相手を選別する傾向は加速し、「接触の選別」とでも言いうる状況が訪れたのである。

 人とのつきあいすら「不要不急」の範疇に入れられたコロナ禍をつうじて、私たちは「人間関係の棚卸し」をいっせいに行った。自由に人と会えないなかで、それでも会うべき人はいったい誰なのか、国民全員がいっせいに考え始めたのである。

 棚卸しの結果、直接会うに足る魅力に欠ける人は、つながりから排除されていった。まさに、コスパの原理による「接触の選別」がこの3年弱の間に引き起こされたのである。

 職場の懇親も不要なものとして遠ざけられていった。日本生命保険相互会社は、「職場での"飲みニケーション"」の必要性についての意識を継続的に調査している。図3では〝飲みニケーション〟が「必要」「どちらかといえば必要」と答えた人を「必要」に、「不要」「どちらかといえば不要」と答えた人を「不要」としてまとめている。

図3.jpg

 この図を見ると、〝飲みニケーション〟を「必要」とする人は、コロナ下の2020年から21年にかけて激減したことがわかる。しかも、21年の回答の詳細な分布を確認すると、「不要」が36・9%と最も多く、「必要」が11・1%と最も少ない。人びとが「人間関係の棚卸し」をいっせいに行った結果、〝飲みニケーション〟は不要の範疇に入れられてしまったのである。


(続きは『中央公論』2023年1月号で)


[参考文献]
友枝敏雄編(2015)『リスク社会を生きる若者たち──高校生の意識調査から』大阪大学出版会
阿比留久美(2022)『孤独と居場所の社会学──なんでもない"わたし"で生きるには』大和書房

中央公論 2023年1月号
電子版
オンライン書店
  • amazon
  • 楽天ブックス
  • 7net
  • 紀伊國屋
  • honto
  • TSUTAYA
石田光規(早稲田大学文学学術院教授)
◆石田光規〔いしだみつのり〕
1973年神奈川県生まれ。東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。『友人の社会史』『「人それぞれ」がさみしい』『「友だち」から自由になる』など著書多数。
1  2  3  4  5