介護、教育費、不登校......世帯年収1000万円超でも尽きない不安――ルポ 中流から没落する人たち

小林美希(ジャーナリスト)
写真:stock.adobe.com
(『中央公論』2025年5月号より抜粋)
目次
  1. のしかかる子どもの教育費
  2. かつては中流だったはずの年収

のしかかる子どもの教育費

「私立の中高一貫校に子どもを通わせることができる家庭が『中流』だと思っていました。うちは中流のなかでも上のほうかと思っていましたが、息子が実際に入学すると予想以上にお金がかかって、いつ家計が破綻するかと心配です」

 都内在住の桜井恵子さん(仮名、50歳)が、困惑した顔で話す。公立学校の教育の質を心配した恵子さんは、息子を中学受験させた。小学生の頃は受験のために総額500万円を投じて塾に通わせ、第一志望の中学に合格。学費が年間で約100万円ということは覚悟していたが、予想外の出費が多い。

 部活の合宿に7万円かかり、年に2回もある。参加するかは任意のスキー教室も7万円かかり、全員が参加するため不参加とはいかない。交通費や昼食代など全て合わせた教育費は年間で約160万円に及ぶ。さらに修学旅行は海外に1週間、費用は60万円の予定だが、為替相場によってはさらに膨らむ。希望者を募るホームステイに行けばまた数十万円単位で費用がかかっていく。

 制服はジャケットだけでも3万円。学校で行われるバザーでリユース品の制服が2000〜3000円で買えるため、販売開始から5分で売り切れる。「私立中に子どもを入れるくらいだから、皆、ある程度の収入があるはずなのに」とも思うが、実際、家計は逼迫(ひっぱく)している。

 会社員の夫の年収は約1200万円。自営業の恵子さんの年収は約300万円で世帯収入は約1500万円になる。国税庁の「民間給与実態統計調査」によれば、2023年の日本の平均年収は460万円。男女別では、男性が569万円、女性が316万円となっている。地域別では、東京の男性の平均年収が647万円、女性が360万円、大阪では男性が568万円、女性が313万円など。

 世帯年収でいえば恵子さん夫婦は平均を大きく超えるが、恵子さんは「生活がカツカツになってきた」という。23区内にある持ち家のローンのほか、生活費は月15万円でやりくりするが、物価高の影響で恵子さんが家計に約5万円を補填する。教育費がかかるため、貯金は100万円にも満たない。

 恵子さんのように、平均年収を超えている"中流"の家庭でも、生活に不安を抱える人が増えている。本稿では、3人のケースから、2025年の中流家庭のリアルに迫る。

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