筒井淳也 人の生涯はどう変遷してきたか――婚姻・親の介護・子育てから考える

筒井淳也(立命館大学教授)

団塊ジュニア世代の「生涯」――未婚率の高さ

 最後に、団塊世代の子の世代、団塊ジュニア世代(一般には71~74年生まれ)の「生涯」を見てみよう。もちろん団塊ジュニアは2023年時点で50歳前後であり、これからの人生もまだ長い。しかし私たちの家族経験は、50歳時点でほぼ決まっていると見てよい。50歳を過ぎて結婚して子をもつことは例外的であるからだ。

 団塊ジュニア世代は平均して男性で80歳強、女性だと87歳以上まで長生きする可能性がある。親の世代である団塊世代よりもさらに10年ほど余命が延びている。もし結婚・出産パターンが団塊世代と同じであったのなら、団塊世代よりもさらに長く、成人後の子と過ごす期間をもつことになるだろう。しかしこの世代には、以前の世代と決定的に異なる特徴がある。未婚率の高さである。

 団塊ジュニア世代は、2010年前後に30歳代後半を過ごすのだが、その時期の30歳代後半の未婚率は男性で35・6%、女性で23・1%である。親世代と比べると格段に未婚率が高い世代だ。おそらくこれまで日本社会が経験したことのない未曽有の「未婚社会」が到来している。

 出生率を見てみよう。団塊世代の女性の累積出生率(50歳になるまでどれほど出産を経験したか)は2・0弱であり、平均して一生のうち2人程度の子をもった。これに対して団塊ジュニア世代では1・4~1・5程度に落ち込んだ。この落ち込みの多くは、結婚した女性の出生数の減少ではなく、結婚しなかった女性がほとんど子をもたなかったことで説明される。

 現在、若者の多くは、「結婚して子をもつ」というライフコースを必ずしも思い描いていない。国立社会保障・人口問題研究所が実施している「出生動向基本調査」(2021年)には、独身女性を対象とした「予想ライフコース」についての設問がある。選択肢には「専業主婦コース」「両立コース」などがあるが、同年調査でトップだったのは、「非婚就業コース」(33・3%)であった。ちなみに「予想」ではなく「理想」のライフコースのトップは「両立コース」(34・0%)である。

 要するに、現在の独身女性の多くは、結婚して働きながら子をもつライフコースを理想だと考えているが、実際には結婚せずに働き続けることになるのではないか、と考えるようになってきたのである。


(続きは『中央公論』2023年4月号で)


[参考文献]
大和礼子『オトナ親子の同居・近居・援助』学文社、2017年
総務省「労働力調査」長期統計
厚生労働省「令和3年簡易生命表」
国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」
内閣府「令和4年版少子化社会対策白書」
日本家族社会学会全国家族調査委員会「第4回全国家族調査(NFRJ18)」
統計数理研究所「日本人の国民性調査」
科学研究費助成事業・学術変革領域研究(A)「生涯学の創出──超高齢社会における発達・加齢観の刷新」ウェブサイト

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筒井淳也(立命館大学教授)
〔つついじゅんや〕
1970年福岡県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(社会学)。専門は家族社会学、計量社会学。『仕事と家族』『結婚と家族のこれから』『社会を知るためには』『社会学』、『社会学はどこから来てどこへ行くのか』(共著)など著書多数。
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