永田夏来×西田亮介 世代論の困難と2025年問題

永田夏来(兵庫教育大学大学院准教授)×西田亮介(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)

世代論の難しさ

西田 今、永田先生がおっしゃったように、団塊の世代は日本型雇用システムに支えられて恵まれていた、というイメージがあります。ただ、この点、実は一括りにするのが難しいところもあります。

 というのも、団塊の世代の大学進学率は2割程度。そして日本型雇用システムは、基本的には大企業の話に過ぎません。その恩恵を十全に受けられたのは、大学を卒業した2割の人の中から、さらにオイルショックやバブル崩壊を乗り越えて定年までたどり着けた、極めて限られた人たちです。つまり、実際には団塊の世代でも日本型雇用システムに守られた人は少数だったはずです。

 でも、下の世代からは「時代のおかげで得した世代」と思われてしまう。そういう意味ではちょっと気の毒です。団塊の世代のイメージには、実態とかけ離れているものも多くありそうです。もちろん、ある程度は大雑把に括らないと世代の議論はできなくなってしまうので、総論と各論の切り分けが大事な気はします。


永田 切り分けと言えば、世代を考える上ではライフコースとライフイベントという視点が重要です。就職や結婚などを含む人生の過程を見るのがライフコース論、それぞれの出来事を横断的にとらえるとライフイベント分析になります。

 ライフイベントの画一性からイメージされるベタな団塊の世代とは異なるライフコースを経験している当事者も、当然いるわけです。


西田 はい。そのはずで、精神史や生活史などで掘り下げてほしいテーマでもあります。NHKスペシャルの「東京ブラックホール」シリーズで1964年当時を再現した回があったのですが、今の社会の方が圧倒的に快適だと感じます。

 たとえば首都高開発などで多くの労働者が亡くなっているように、労働現場も過酷で、男女雇用機会均等法もはるか先のことなのでジェンダーギャップも凄まじいです。団塊の世代と聞くと、ステロタイプで男/正社員/勝ち組の印象が先行しやすいのですが、そこはもう少し幅広く捉える必要がありそうです。


永田 今の基準で見ると、労働環境や住環境も相当にシビアなんですよね。あと、性規範も強かったと思います。戦前からの家制度の延長で、男は男らしくリーダーシップを取り、女は女らしく従うのだという考えが強い。団塊の世代である上野千鶴子先生も、「今は良くなった」という発言をされていますからね。


西田 ジェンダー観の変化は近年、急激にもたらされたものなので、当時の社会は都市部も含めて全体的にかなり厳しそうです。

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