永田夏来×西田亮介 世代論の困難と2025年問題

永田夏来(兵庫教育大学大学院准教授)×西田亮介(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)
西田亮介氏(左)×永田夏来氏(右)
 団塊をめぐって、団塊ジュニア世代とポスト団塊ジュニア世代の社会学者が議論。超高齢社会にあって、世代の違いをどのように捉えていくべきかなどを考えます。
(『中央公論』2023年4月号より抜粋)

大きく変わった時代と状況

永田 私は1973年生まれで、いわゆる「団塊ジュニア」、就職時には「ロスジェネ(ロストジェネレーション)」と呼ばれた世代です。


西田 ぼくは83年生まれで、「ポスト団塊ジュニア」世代です。


永田 まず団塊の世代について、私の専門の家族社会学の観点からお話しすると、恋愛結婚をしてサラリーマンの夫と専業主婦の妻で子どもを育てるという、現在共有される典型的な家族像を一般化した点が重要です。もちろん、そうした家族のかたちは、団塊の世代が意識的に作り出したというよりは、社会状況に即した結果として生み出されたと言うべきかもしれませんが。


西田 重要な点ですね。「団塊の世代が日本の発展の礎を築いたのだ」といった言説もありますが、主体的に選び取った道なのか、環境がそうさせただけなのか、一概には言えません。ただ、経済成長や相対的地位などによって世代の特徴が作り上げられた面は大きいはずです。


永田 団塊の世代は様々なイメージで語られてきましたが、その中には「好き勝手やってきた」というものもありますよね。これは戦争で上の世代の人口が減っていたため、若い頃から「重し」があまりない状態で過ごせたことと関係していそうです。


西田 他方、団塊の世代はボリュームが大きいので、結果的に彼らより下の世代の「重し」になっていて、敵視されてきました。その構造も興味深いです。

 団塊の世代が現役だった時代は、戦後復興と経済発展の果実が明確になった時期でした。でも、現代の世界と社会はもっと複雑になっています。経済成長しない時代が30年も続き、国際情勢も東西で色分けできるようなものではありません。また、かつての社会主義や共産主義のように、広く若者がシンパシーを持てるイデオロギーも見当たりません。


永田 政治運動について、団塊の世代の方法論をそのまま今に持ち込んだらうまくいかないでしょうね。


西田 そのため彼らの経験をベースにした言説は、思い出話としては興味深いものがありますが、現実に対する実践的な処方箋としてはあまり意味がなさそうです。


永田 家族のあり方も現在は様変わりしつつあります。彼らが家族を作った高度経済成長期には、終身雇用と年功序列型賃金制度が整備され、結婚する年齢や、子育てが終わる年齢を予想しやすかった。

 ですが今の日本では、雇用の形態も様々だし、年功序列で賃金が上がるわけでもない。そんな中で、団塊の世代と同じ前提で家族を作ることが困難になってきています。こうなると、下の世代との認識のギャップは大きくなっていきますよね。

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