永田夏来×西田亮介 世代論の困難と2025年問題

永田夏来(兵庫教育大学大学院准教授)×西田亮介(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)

2025年問題とコミュニティ

永田 これから団塊の世代が75歳以上となる事態、いわゆる「2025年問題」に日本は直面します。医療や介護、社会保障などの面で様々な困難が懸念されていますよね。

 そして東京には若年人口が流入し続ける一方、地方都市では高齢者が取り残される状況は今後も変わりそうにありません。超高齢社会にあって、地域コミュニティをどうすればいいのか。

 考えるポイントは幾つかあると思っています。一つはジェンダーの観点から。専業主婦の女性が社会進出できなかったという問題点が語られることは多いです。他方、男性も性別役割分業の犠牲者と言えます。定年退職して仕事がなくなると、友達はいないし、仕事以外のコミュニケーションが取れないことに気づいたりするケースは非常に多いですから。


西田 ぼくも友達が少ないので、他人事じゃないですね......。(笑)


永田 ははは。確かに団塊の世代だけの話ではありませんね。何にせよ、地域コミュニティでの生活は仕事ではないわけですから、男性が組織や役職を離れたところで、どこまで溶け込んでいって役割を果たせるかが重要になります。

 そうしたミクロレベルの話と関連しますが、もう一つはミュニシパリズム(地域主義、自治体主義)においても団塊の世代が鍵を握るはずです。2025年問題では、地域が主導して様々な対策を打つことが求められています。その担い手として団塊の世代に何ができるのかは問われますよね。


西田 ただ、現実はなかなか厳しいと思います。みんな高齢化しており弱っていくわけですから、団塊の世代が相互扶助したとしても、限界は当然訪れます。男女ともに健康寿命は75歳前後なので、できることはかなり絞られそうです。


永田 やっぱり難しいのかな。地方では「とにかく若い人に帰ってきてほしい」という話をよく聞きます。


西田 人の減り方が激しすぎて、すべての地域にまんべんなく若い人たちを集めるのは、ほぼ不可能ですよね。一定の人口規模があって、インフラが整っており、仕事があるところじゃないと若い人は来ないでしょう。渡し切りの移住支援金やその増額で移住を判断するほど、若い人は馬鹿じゃない。

 2025年問題については特段有効な対策もなされないまま、この先5年、10年で多くの高齢者が世を去り、幾つもの地域コミュニティが消えていくと考えています。


永田 なし崩し的な展開にはなりそうですよね。だからこそ、団塊の世代の動向や判断が問われているとも思うのです。

 団塊の世代の特徴として、新しいことをやりながら、古いものも維持できていた世代という点が挙げられます。たとえば団塊の世代はきょうだい数が多いので、長男は実家を継ぎ、長男以外は都市に出て核家族を形成するケースも多い。結果的にきょうだいの中で役割分担をして、古い考えを長男がそのまま踏襲し、新しい生活を長男以外が実践することができました。こうして社会全体として、古いものも新しいものも手放さないまま現在に至っている。

 でも、その状態を維持するのは難しいでしょうし、次の世代も継承はできない。そうすると、何をどういう基準で変えたり手放したりするのかが問われてきます。そうじゃないと身動きも取れなくなってしまう。


西田 経済成長しているうちは前例踏襲も有効でしたけれど、もう限界が来ていますよね。様々な選択を先送りしているうちに、マクロではほとんど何も変えられないまま超高齢社会を迎えてしまいました。こうなるのはわかっていたはずなのに。


永田 それは若い世代が直面する現実でもありますね。


(続きは『中央公論』2023年4月号で)


構成:山本ぽてと

中央公論 2023年4月号
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永田夏来(兵庫教育大学大学院准教授)×西田亮介(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)
◆永田夏来〔ながたなつき 〕
1973年長崎県生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科修了。博士(人間科学)。専門は家族社会学。著書に『生涯未婚時代』、共著に『入門 家族社会学』『場所から問う若者文化』『音楽が聴けなくなる日』など。 

◆西田亮介〔にしだりょうすけ〕
1983年京都府生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門は公共政策の社会学。著書に『メディアと自民党』『不寛容の本質』など。
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