谷口功一 夜のインフラ、ラウンジの現在

谷口功一(東京都立大学教授)
写真提供:photo AC
 ソファーに座り酒を楽しみながら、同席する女性スタッフと会話ができるラウンジは人づきあいの場として機能してきた。アフターコロナの今、状況はどうなっているか。スナックやパブ、バーなど夜の店を愛好する学者らで構成される「夜のまち研究会」の代表に寄稿してもらった。
(『中央公論』2023年8月号より抜粋)

コロナ禍と東日本大震災後の風景

 まずは時計の針を20年4月まで巻き戻してみよう。この月の7日、初の緊急事態宣言が安倍晋三首相(当時)によって発出された(この時点での全国の新規感染者数は350名程度で、この日の東京都の新規感染者数はわずか79名と少なかった)。あらゆる人が自宅でじっと息を潜め、人との関わりが断たれたあの春。歓楽街から人の姿は消え、ゾンビ映画のような光景がそこかしこに広がっていた。

 東日本大震災後の11年の春、放射能の影に人びとが怯える中、観る人とてなく咲き誇る桜花が「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」という言葉に異様なまでの迫力をまとわせたが、9年後に同じような事態が全く違った形で起きることを予期し得た者は誰もいなかっただろう。

 世界史的に見ても稀有な、地球上のあらゆる人間の社交が強制的に断絶させられたこの期間の"あの雰囲気"は、一生忘れることができないものとなった。私自身も家族と共に自宅に籠もり、近所の武蔵野の森を人と出くわさないよう散策するしかなく、他者との交わりが完全に断たれた日々を過ごしていたが、ある日、ネットを検索していて一人の女性を発見したのだった。

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