葉上太郎 JR只見線復活から1年――座れないほど混雑する理由

葉上太郎(地方自治ジャーナリスト)

山手線並みの混雑

 結果はどうなったのか。

 不通区間の運行が再開されたのは22年10月1日。被災から実に11年2ヵ月が過ぎていた。

 待ちわびていた観光客や鉄道ファンがどっと押し寄せた。紅葉時期が重なったこともあって、再開直後の只見線は「山手線並み」と評されるほどの混み具合だった。

 立ちっぱなしの車内で体調を崩し、救急搬送された人もいた。

 これが一時的なブームで終わるかと思いきや、1年が経過してもまだ冒頭のような混雑が続いている。臨時列車だけではなく、平日も始発から立ち客が出る状態だ。

 列車で1時間かけて通学している高校生は「全く座れなくなりました。車両を増結してほしい」と、朝から疲れた顔で話していた。

 人気の理由は何なのか。

「応援したいと、たくさんの人が乗りに来てくれます。地元が頑張って復活させた路線とはどんな鉄道なのだろうと、興味を持つ人もいます」。只見線地域コーディネーターの酒井治子さん(43歳)は話す。

 酒井さんは只見町在住で、只見町観光まちづくり協会の元事務局長だ。現在は仲間と地元産品の製造や販売を行う会社を経営していて、18年から県に任命されたただ一人の只見線地域コーディネーターとして活動している。ボランティアで沿線の魅力を伝えたり、只見線を介した交流を支えたりするのが仕事だ。他にも週に1度は会津川口―只見間で特産品の車内販売などを行っている。

「乗客の多くは60~80代で女性グループが目立ちます。運行再開に向けた報道で、只見線沿線の美しさや、雪深い奥会津の人情を知り、九州や四国から訪れる人もいます」と言う。

 海外からの来訪者もいる。只見線の知名度が高い台湾はもとより、欧米からの乗客が増えたと酒井さんは実感している。「オランダから来た高齢の女性と息子は『景色を見たい、皆さんに会いたいと思って来ました』と話していました。NHKの国際放送で只見線の特集を見たという米国カリフォルニアの男性には『日本には何度も来ていて、今回は只見線が目的です。あなたテレビに出ていたでしょう。会えて嬉しい』と言われてびっくりしました」と語る。

 只見線の本数が限られていることから、一部の区間を「ちょい乗り」するバスツアーも増えた。会津川口駅や只見駅にバスが何台も並んで止まることが珍しくない。

 こうして只見線に乗りに来る人が増えたせいだろうか。23年の紅葉時期は沿線の宿がほとんど満室で、取材で訪れた時には無人駅で野宿するしかないと思ったほどだった。

(続きは『中央公論』2024年2月号で)

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葉上太郎(地方自治ジャーナリスト)
〔はがみたろう〕
全国紙記者を経て2000年よりフリーに。月刊誌などにルポを発表している。著書に『日本最初の盲導犬』『瓦礫にあらず』『都知事、不思議の国のあるじ』『47都道府県の底力がわかる事典』など。
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