選挙を脅かす襲撃事件と、日本の要人警護
福田 充(日本大学教授)
ローンオフェンダーによるテロは昔からあった
そして日本でも、ローンオフェンダーによる要人テロが発生した。安倍晋三元首相銃撃事件と岸田文雄首相襲撃事件である。この事件の容疑者・被告はいずれもローンオフェンダーであった。
しかし日本では戦前においても首相らの要人暗殺が繰り返されてきたことを忘れてはならない。大日本帝国議会開設後、大正デモクラシーから昭和にかけて、1921年には原敬首相が、31年には濱口雄幸首相がローンオフェンダーにより殺害されている。初代総理大臣である伊藤博文も民族独立運動家の安重根によりハルビンで銃殺された。この安重根は朝鮮半島においては民族自決、独立運動の英雄であるが、日本の視点からみれば要人暗殺のテロリスト、ローンオフェンダーとみなすこともできる。
この立場による両義性がテロリズムの難しさであり、正義や正統性を奪い合う政治的ラベリングの闘争、政治的コミュニケーションもテロリズムの一部であると言える。
(『中央公論』7月号では、この後も、選挙における要人警護の難しさや、ローンオフェンダー対策の重要性について、論じている。)
福田 充(日本大学教授)
〔ふくだみつる〕
1969年兵庫県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科社会文化研究専攻博士後期課程単位取得退学。博士(政治学)。専門は危機管理学、リスク・コミュニケーション、テロ対策。著書に『政治と暴力 安倍晋三銃撃事件とテロリズム』『新版 メディアとテロリズム』など。
1969年兵庫県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科社会文化研究専攻博士後期課程単位取得退学。博士(政治学)。専門は危機管理学、リスク・コミュニケーション、テロ対策。著書に『政治と暴力 安倍晋三銃撃事件とテロリズム』『新版 メディアとテロリズム』など。