【追悼】稲盛和夫さん「哲学なきベンチャーは去れ」

稲盛和夫(京セラ名誉会長)
           稲盛和夫氏(写真提供◉稲盛ライブラリー)
2022年8月24日、日本を代表する経営者の稲盛和夫さんが亡くなられました。享年90。京セラやKDDIを一代で世界的な企業に成長させ、経営破綻した日本航空の再建に尽力しました。ベストセラー『生き方』をはじめ、経営哲学について書かれた著書は中国など海外でも読み継がれています。追悼の意を表し、「中央公論」2000年8月号掲載の寄稿論文より、一部抜粋・編集を加えて配信いたします。ネットバブルに沸いた、当時のベンチャービジネスに警鐘を鳴らし、あるべき起業家の姿を説きます。

東証マザーズの開設やナスダック・ジャパンの創設など、ベンチャー企業にとっては、飛躍のチャンスとなる舞台が整ってきました。これはベンチャー育成を目指す日本にとっては、好ましいことです。言うまでもなくベンチャービジネスに挑戦する人たちがたくさん出てくることは、日本全体の経済発展にとって非常に大きな影響を及ぼします。ですからべンチャーはなんとしても育てなければなりません。そして起業家もチャンスを生かして世界に羽ばたいていってもらいたい。これはベンチャービジネスの先輩としての切なる願いです。

その一方で、憂慮すべきいくつかの風潮も出てきています。ご存じの通り、情報公開を怠り、投資家に大きな迷惑をかけたり、株主が真っ青になるほど短期間のうちに株価が急落したりといったケースが出てきているのです。社員も大量に辞めはじめています。その結果、日本経済再生の担い手として期待されたベンチャービジネスに対して、一種の失望感、あるいは胡散臭さが漂いはじめている。

果たして、ベンチャーとはそんなにいい加減なものでしょうか。そうではなくて、ベンチャーとは、冒険心に富んではいても、もっとストイックで地道で慎重なものであるはずです。ベンチャーを見つめる社会の目が厳しくなっているいまだからこそ、「ベンチャーとは何か」「ベンチャー経営者とはどうあるべきか」が問われなければなりません。

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