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【追悼】稲盛和夫さん「哲学なきベンチャーは去れ」

稲盛和夫(京セラ名誉会長)

全き人格を目指しあくなき研鑽を

 

経営について話します。企業を経営するうえで大事なことは常にゴーイング・コンサーンであること。つまり永遠に続く事業、企業を作っていかなければならないということです。短期で消滅するようなものであってはいけません。企業とは永遠に発展し続ける生命体であるべきです。そう考えると企業は生命体ですから、人間の肉体と同じように病気をしたり、けがをしたりしてどこかに欠陥が出る。それを一つ一つ治していきながら、バランスの取れた生命体にしていく。そのためには、リスクを取りながら集中すると同時に、一方で針の穴を通すような慎重さが求められます。この微妙なバランスを崩すと経営体は続きません。常にバランスを取りながら、永遠の継続を求める、長丁場の戦いなんです。

息が詰まるような長丁場のなかで、緊張感を絶やすことなく大胆にそしてケアフルに進める。これがベンチャー経営というものです。ベンチャービジネスを始めるには、大いなる冒険心が必要です。しかし、いったん始めたら細心の注意力が要求される。研究開発は大丈夫か。製造はうまくいっているか。営業はしっかりしているか。財務は万全か。どれか一つが欠けても、企業はうまくいかない。だから経営者は全方位に目を配り、細心の注意を払う。慎重のうえにも慎重であること。このことをベンチャー経営者は忘れてはなりません。

京セラもいまにもつぶれるのではないかと、ともすれば引っ込み思案になり、ビビッてしまう自分と、いやベンチャー経営者として勇気を奮い起こさねばならんという自分との葛藤の毎日でした。そのときに私は、経営者というものは全人格を問われる存在なのだと痛感したのです。自分に突き刺さってくるこの問いかけは、当時まだ人間のできていない私にとっては、大変過酷でありました。

私の故郷の偉人に明治を開いた西郷南洲と大久保利通がいます。鹿児島では西郷の人気が圧倒的に高い。私もどちらかというと西郷的なところがあるのですが、いざ事業を始めてみると、むしろ不人気だった大久保の研ぎ澄まされた緻密さ、論理性みたいなものも要求されるということがわかった。もちろん、そればかりでもだめで、大久保の冷徹な論理と同時に、社員についていきたいと思わせる西郷の情というか気質の両方が求められるのです。この矛盾した存在を一人で備えるのが経営者なんだと、若いながらに悟った。

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