『三体』がヒットしたのは必然だった!? 中国SFが世界をトリコにしている4つの理由
ケン・リュウの登場が事態を一変させた
ここでごく簡単に中国SFの歴史をふりかえってみよう。中国では、1949年の中華人民共和国建国以降、SFが社会主義文学の一角に位置付けられ、科学知識の普及・啓蒙や社会鼓舞などの役割を担っていた。しかし、改革開放が進んだ1980年代以降、海外SFの吸収が急速に進むと同時に、社会主義文学という鎖から解き放たれ、1990~2000年代にはSFの質・量ともに向上し、優れた作品が次々に生み出されるようになった。
この頃、中国SF四天王と呼ばれる劉慈欣・王晋康・韓松・何夕がデビューしている。ただし、まだ国外では認知されていなかったし、中国国内の人気もSFファン以外には及んでいなかった。
事態を一変させたのは、中国系アメリカ人作家ケン・リュウである。彼が2014年に翻訳した『三体』が英語圏でブームを巻き起こしたのだ。その後、劉慈欣をはじめとして、次々に中国SFが英訳されて人気を博している。
『三体』(劉慈欣著、立原透耶監修、大森望、光吉さくら 、ワンチャイ訳/早川書房)
確かに『三体』の人気・評価は突出しているものの、中国SFの質自体も高く評価されている。英語圏だけでなく、ヨーロッパや韓国・日本などで次々に中国SFの翻訳が進んでいることもその傍証になるだろう。
現在、中国SFを牽引しているのは、劉慈欣をはじめとする中国SF四天王よりも世代が下の80~90年代生まれの作家たちである。その多くは名門大学を卒業しており、IT企業の重役や大学教員などを兼業している者もいれば、海外に留学・就職している者もいる。作品だけでなく、作家自身もグローバルに活躍しているといっても過言ではない。例えば、近年の中国SFの代表的作家である陳楸帆(スタンリー・チェン)は、北京大学卒業後、Googleや百度で働き、現在ではIT企業の副社長になっている。
なお、英語圏での人気の高まりを受けて、中国国内でもSFの評価はうなぎのぼりとなっている。劉慈欣の作品をはじめとして次々に映像化が進められ、企業や地方都市がSFとコラボして新製品の開発や町おこしを行うケースも増えている。