スポーツと地域活性化 コロナ禍を経て見直される社会的価値

日本スポーツ産業の過去と未来 アフターコロナを見据えて(第2回)
野沢亮太(株式会社日本政策投資銀行 地域調査部 調査役)
なぜスポーツ産業に注目が集まるようになったのか(写真提供:写真AC)

進むスタジアム・アリーナ改革

 2015年10月、わが国全体のスポーツ行政の司令塔であるスポーツ庁が、文部科学省の外局として発足し、これまで教育政策の一環として展開されてきたスポーツ政策に、経済・産業政策的な施策が導入されることとなった。

 スポーツ庁は、16年には、経済産業省と共同で「スポーツ未来開拓会議」を設置し、25年までにスポーツ産業の国内市場規模を15兆円に拡大する政策目標を策定した。そして、同年に政府が閣議決定した名目GDP600兆円に向けた成長戦略「日本再興戦略2016」にも、官民連携プロジェクトの一つとして「スポーツの成長産業化」が位置づけられた。スポーツ産業には我が国の基幹産業になるポテンシャルがあるとの認識がなされてきたわけである。

 そして、この「スポーツの成長産業化」は、翌年より名称変更した「未来投資戦略」や直近の20年7月の「成長戦略フォローアップ」においても政策課題として引き継がれている。

 こうした国を挙げてのスポーツ政策の中心的な施策に位置づけられているのが、スタジアム・アリーナ改革である。

 スタジアム・アリーナの新設・建替構想は全国各地に存在し、日本政策投資銀行の試算では、2013年時点で向こう20年のスタジアム・アリーナ等の改築新築金額規模を約2兆円と推計している。さらに16年6月にスポーツ庁及び経済産業省より公表されたスポーツ未来開拓会議中間報告における試算では、25年までに3.8兆円の積み上げがあることも見積もられている。こうした期待から「未来投資戦略2017」では、多様な世代が集う交流拠点となるようなスタジアム・アリーナを25年までに20カ所整備することを、政策目標として掲げている。

 また、19年6月に閣議決定した「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」で示された「スポーツ・健康まちづくりの推進」では、スタジアム・アリーナについて「これまでコストセンターとして捉えられていたスポーツ施設に対する固定観念・前例主義等のマインドチェンジを図り、スタジアム・アリーナなどの体育・スポーツ施設を地域資源と捉え、まちづくりや地域経済活性化の核とする取り組みを推進する」としている。

 この「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」には「地域資源」や「地域活性化」というキーワードがスタジアム・アリーナとともに出てくる。ここでスタジアム・アリーナの地域にもたらす価値について考えてみたい。

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