スポーツと地域活性化 コロナ禍を経て見直される社会的価値

日本スポーツ産業の過去と未来 アフターコロナを見据えて(第2回)
野沢亮太(株式会社日本政策投資銀行 地域調査部 調査役)

観戦経験が生む「愛着」と「誇り」

 日本政策投資銀行では、等々力陸上競技場および川崎フロンターレを好事例として、川崎市への「愛着」と「誇り」に関するアンケート調査を2021年1月上旬にインターネットで行い、スタジアム・アリーナおよびスポーツチームが周辺地域のステークホルダーにもたらす社会的価値の可視化・定量化を試みた。

 調査対象は、川崎市に居住する20代~60代の男女個人で、川崎フロンターレの応援を目的として等々力陸上競技場へ試合観戦に行ったことがある人と、観戦に行ったことがないまたは行こうとしたことがない人のそれぞれ400人ずつ(合計800人、図表参照)。

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 アンケート調査結果では、等々力陸上競技場での観戦経験のある人は観戦経験がない人に比べ、川崎市に対して強い「愛着」や「誇り」を有していることが明らかになり、スタジアム・アリーナおよびスポーツチームにおける活動が、スタジアム周辺地域住民のシビックプライドやソーシャルキャピタルの醸成に寄与することが示唆された。

 スタジアム・アリーナおよびスポーツチームの存在が、スポーツの観戦やスポーツ活動への参加を通じて、地域のコミュニティを強化し、地域アイデンティティの醸成に貢献していることは、スポーツの社会的価値といえるだろう。この点は、「スマート・ベニュー」の概念でもこれまで着目されていた観点である。

 一方で、新型コロナウイルスが副次的にもたらしたテレワークの普及をはじめとしたオンライン化の加速によって「物理的な距離」の概念が変化し、「住む」「働く」ことの自由度が大きくなるなか、心理的に地域と人をつなげ地域への帰属意識を育む要素はこれまでよりも重要になるものと考えられる。これらのコロナを契機とした価値観の変容を鑑みると、スポーツによる地域アイデンティティの醸成や地域コミュニティの強化への貢献は、アフターコロナにおける地域にとってもより有用な社会的価値となるだろう。

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