スポーツと地域活性化 コロナ禍を経て見直される社会的価値

日本スポーツ産業の過去と未来 アフターコロナを見据えて(第2回)
野沢亮太(株式会社日本政策投資銀行 地域調査部 調査役)

価値観を共有できるコンテンツ

 まず地域が抱える課題を振り返ってみる。地域は、人口減少や超高齢化、中心市街地の空洞化、地方財政の悪化といった多くの課題を抱えている。これらの課題に対して、分散している人口の集積、公共施設等を市街地に集中させるコンパクトシティの形成、都市機能の集約は、これからのまちづくりにおいて欠かすことのできない概念であり、地域社会にとって期待されているところであろう。

 ただし、物理的な都市機能としての施設の集約だけではコミュニティの一体感を醸成することは難しく、そこには世代を超えて多くの地域住民が交流できる空間を創出することが求められている。このような交流空間の創出には、多くの人々が価値観や感動を共有でき、地域に対するアイデンティティを感じられるようなコンテンツが必要となるだろう。そのようなコンテンツとして「スポーツ」が注目を集めることになる。

 スポーツは、観る者を引きつけ、同じ感動を味わうことにより一体感を創出するだけでなく、地域単位でのクラブチームの設立等により地域のアイデンティティの醸成も担うことのできるコンテンツである。そして、スタジアム・アリーナ等が、そのスポーツと地域を結びつける交流空間となることが期待されるのである。

 これまでの日本国内におけるスポーツ施設は、公共的な役割の下、郊外に立地する単機能型体育施設として建設されてきたが、今後、まちづくりやコンパクトシティの中核を担う交流施設は、スポーツ施設としての機能以外にも多機能複合型、民間活力導入、まちなか立地、収益性向上といったポイントが重要になると考えられる。

 これらの要素を備えた施設として、2013年8月、日本政策投資銀行は、スポーツを核とした街づくりを担う「スマート・ベニュー」を提唱し、「周辺のエリアマネジメントを含む、複合的な機能を組み合わせたサステナブルな交流施設」と定義した。

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