冷え込む日本のサブカル熱。日本産コンテンツが中国で急速に存在感を失ったワケ
北京大学准教授が伝える「中国人の日本観」(後編)
古市雅子(北京大学准教授)
かつて中国国内では日本の映画がブームを起こし、アニメは社会現象になった。しかしメディア環境などの変化に伴い、日本のサブカルチャーは急速に影響力を失っていると古市雅子・北京大学准教授は言う。各国がコンテンツ事業を国家戦略に掲げる中、日本はこの先も世界で存在感を示すことが出来るのか。前編、後編にわたり、激変する中国人の日本観を伝える。(『中央公論』2021年6月号より)
海外旅行ブームの影響
日本のサブカルチャーがリアルな日本に触れるための窓口の役割を果たしていたという状況。それがガラッと変わったのは、同じ2010年代、中国に海外旅行ブームが起きてからだ。
それまで海外旅行に行けるほどの経済力を持つのは、ごく一部の富裕層にすぎなかった。一般の人にはパスポートやビザの取得も困難だったため、海外旅行はただの憧れでしかなく、海外研修や留学ができるかもしれない、という理由で地域研究を志す学生も多かった。
しかし一般庶民にも急速に経済力がつき、パスポートの申請手続きが大幅に簡素化され、多くの国が中国に対して観光ビザの発給要件を緩和したことで、旅行客が海外に飛び出した。
海外諸国の中でも最も大きな利益を得たのは日本かもしれない。
距離の近さ、数日あれば駆け足で縦断できる規模感、旅費と物価の安さ、商品の質の高さ、同じ漢字文化圏である親しみやすさ、そして高度に社会が成熟している日本は、圧倒的な人気がある。海外旅行初心者にとっては、「まずは日本」だし、欧米はじめ世界各国を訪れ、旅行経験を重ねた人にとっても、何度も訪れたい尽きない魅力が感じられるらしい。