冷え込む日本のサブカル熱。日本産コンテンツが中国で急速に存在感を失ったワケ

北京大学准教授が伝える「中国人の日本観」(後編)
古市雅子(北京大学准教授)

気軽に行ける国になった日本

毎年春節に公開される中国の「お正月映画」は冬の大きな楽しみだが、2021年は『唐人街探案3』(僕はチャイナタウンの名探偵3)の大ヒットが大きな話題となった。

外国でふとしたことから事件に巻き込まれた主人公とその叔父である探偵が事件を解決するドタバタコメディで、一作目がバンコク、二作目はニューヨーク、そしてこの三作目で東京が舞台となり、日本の人気俳優が数多く出演したことでも話題となった。今年の春節初日だけで映画の興行収入が中国史上初、世界史上初の二一億元(約三四〇億円)を突破したのだが、その六割をこの作品が占めている。

もともと大人気シリーズであったこと、本来は去年の春節公開を予定していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大で一年延期となり期待が高まっていたこと、コロナで帰省を自粛した人たちが映画館に向かったことが主なヒットの理由であるが、そこには「日本に行きたくても行けない」気持ちや、「行ったことのある日本がスクリーンに映っている」という興味関心が受け皿となっていることも忘れてはいけない。今や日本はそれだけ身近な国になっているのだ。

285410_s.jpgブームを経て中国人にとって身近な国になった日本(写真提供:写真AC)

日中関係があまりよくない時に、こちらが日本人だとわかると、過去の歴史について討論を持ちかけられたりして、なんとなく日本人だと言いづらかったりすることがあるが、今は日本人だとわかると、まずは「自分は日本に行ったことがある」「おすすめの観光地を教えてほしい」という話になる。「日本料理、日本酒が好きだ」と言われることも多い。また知人に、日本に一時帰国すると言うと「これを買ってきてくれないか」と、化粧品や薬などを細かくブランドまで指定して頼まれたりもする。

日本語を学びたいという学生の動機には、日本に行った時に日本語で話したいという思いのほか、村上春樹や東野圭吾が好き、日本の推理小説が好き、日本の文房具が好き、フィギュアスケートの羽生結弦選手が好き、お笑い芸人が好きなど、ますます多様化している。日本風のファッションやメイク、ヘアスタイルのほか、インテリアや収納術など、日常生活を充実させたい時に、日本のライフスタイルが選択肢の一つとなってもいる。それぞれが、自分なりの切り口からありのままの日本に触れているようだ。

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