冷え込む日本のサブカル熱。日本産コンテンツが中国で急速に存在感を失ったワケ

北京大学准教授が伝える「中国人の日本観」(後編)
古市雅子(北京大学准教授)

日本のサブカル熱が冷めた理由その2「海外コンテンツの増加」

第二に、各国のコンテンツ産業が中国進出に力を入れるようになり、また中国の配信サイトも、ユーザーの期待に応え積極的に海外コンテンツを取り込むようになったことがある。

アメリカ、韓国のドラマがそれぞれ大きくシェアを伸ばしているほか、台湾ドラマも根強い人気があり、タイのドラマも近年着実に進出している。特に韓国は芸能人が積極的に中国のテレビCMやバラエティ番組、歌番組に出演し、外国人の出演が制限される事態にもなった。

今でもアニメと言えば日本と認識されてはいるものの、アメリカのアニメのファンも多い。つまり、海外コンテンツのなかで日本のアニメだけが突出した人気を誇っていた時代から、世界各国の様々なコンテンツと横並びで競争しなければいけなくなったのだ。

日本のサブカル熱が冷めた理由その3「国産アニメの急成長」

そして第三に、中国の国産アニメが力をつけてきたことがあげられる。

2011年10月18日、「文化体制改革の深化及び社会主義文化の大発展、大繁栄を推進することに関する若干の重大問題についての中国共産党中央の決定」という文書が党中央委員会で採択された。この政策の柱が「文化強国政策」である。自国の文化を振興し、中国が文化的に強い国になるための具体的な政策が策定された。

その対象となったのは、クリエイティブ産業、特にアニメやゲームである。国営企業中心だった産業構造を大きく改革し、民間企業と国営企業を公平に競争させ、実力と競争力を兼ね備えた産業として育成することを国の方針として定めた。アニメを制作する会社には税制上の優遇措置が取られ、全国の大学にアニメ制作を学べる学部が新設され、大規模な制作スタジオが各地に設立された。

その後すぐに中国のアニメ制作量は世界一となったが、優遇政策目当てに会社が乱立したこともあり、当初は質が伴わないことも多かった。しかし徐々に話題作が現れ、今まさに、世界的に評価されるような作品が量産される気運を感じる状況となっている。昨年から日本でも中国のアニメ映画が続々と公開され、配信サイトやWOWOWなどでも放送が始まっている。

中国の古典ファンタジー的世界観の中で、日本の少年漫画のように主人公が傷つきながら壁を乗り越え成長していくストーリー展開、それをアメリカアニメのような迫力の3Dで描くという、オリジナリティのある完成度の高い作品を見ることができるようになった。アニメというコンテンツにおいて常に中心にいた日本アニメは、中国産アニメにその場所を追われ、既に周辺の存在になりつつある。特に2010年以降の中国は、劇的なスピードで変化、発展している。

そのスピード感があるゆえに、中国では一、二年、これといった日本の作品が現れなければ、冒頭にあった学生の卒論のように、日本のアニメは「既に衰退を始めている」と言われてしまうのである。長く住んでいる私自身、この数年は常に意識して自分の中の中国像を更新していかなければ置いていかれると感じている。それほどのスピードで社会が動いている。

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