2010年代ヒット漫画に見られる饒舌と沈黙。だから炭治郎は感情や思考をはっきり語り続ける
谷川嘉浩(京都市立芸術大学特任講師)
ウェブ小説原作、SNS発の漫画
「実況的な語り」は『鬼滅の刃』に限ったものではない。『転スラ』こと『転生したらスライムだった件』(15ー)、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった・・・』(17ー)のような、アニメ化・漫画化された10年代のヒットコンテンツもまた、主人公が感情や思考、印象などを逐一言葉にして読者に伝えている(西暦は漫画版)。こうした作品の場合は、『鬼滅の刃』と違ってウェブ小説原作という要素も大きいだろう。
ウェブ小説は、キャラクターや趣向・設定と、それに基づく物語の大筋を見せていくことに力点があり、高頻度で作品を発表することが期待される。だから作者は修辞や文体に凝るのではなく、世界の描写や人物の内面や言動を実況報告するように言葉にしていく傾向にある。
TwitterなどのSNSで話題になったことから書籍化された『こぐまのケーキ屋さん』(17ー)や『世界の終わりに柴犬と』(18ー)のような漫画もまた、基本的に隠された内面などなく、キャラクターが行動や感覚を逐次開示する。ウェブ小説と類似した媒体上の特性があることに加え、SNSでは一度の投稿で載せられる画像枚数に制限がある都合から、短いコマ数で話にオチをつける必要があり、4コマ漫画のようなコミカルなテイストになりやすいという背景があると思われる。
Twitter発の『私のジャンルに「神」がいます』(20)、イラスト共有SNSであるpixivでブレイクしてアニメ化もされた『ヲタクに恋は難しい』(14ー21)、ドラマ化で話題を呼んだ『逃げるは恥だが役に立つ』(12ー17、19ー20)といった、感情の波、表情や言語表現、自己呈示などが極端かつ演劇的に誇張された作品群も「実況的」だ。