ゲンロン社長 上田洋子 インタビュー(前編) 「すこし贅沢に作りましょうという気持ちになったことで、すごくいい本にすることができた」

コロナ禍で生み出された『ゲンロン12』と編集者・上田洋子の原点

「厚さ2センチの壁」をついに突破した

――『ゲンロン12』は記事の順番も面白かったです。巻頭の宇野さんと東さんの対談から東さんの筆頭論文のあとに、柳美里さんのエッセイと、異なるタイプの文章が並び、刺激的でした。台割はどのように作られているのでしょうか。

 話し合いながら作っています。普段から少しずつ出し合ってきた案をもとに、いちど東さんがいない編集会議でゆるくベースを作り、そのあとに、東さんと相談しながら練り上げていきます。誰に依頼するか、どの記事のボリュームを増やしていくかなど、編集部でも意見を出して、みんなで作っている感はあるかなと思います。ただ、特集のベースや全体の大枠、記事の順番などは東さんがセンスを生かし、リードして決めている部分があります。

JAN_0009-min.jpg上田洋子さん(五反田のゲンロンカフェにて)

――今回はページ数が『ゲンロン』史上最大のボリュームになっていますね。

 もともと『ゲンロン』は、「ゲンロン友の会」会員への送付が第一に想定されているので「厚さ2センチの壁」というものがあったのですが、ついにそれを突破しました。というのも、2センチを超えると送料が大きく変わってくるんです。経費削減のため、前号までは、薄い紙を使うなど涙ぐましい工夫をしていたのですが、今回は、「もう厚さは気にせず、自由に作ろう」ということになりました。

『ゲンロン』はもともと年3回の刊行だったんです。でも、うちのような小さな会社で、しかも出版以外にも複数の事業をやっているところでは、そのスケジュールを維持するのはなかなか厳しい。2019年の『ゲンロン10』から年3回刊をやめました。とはいえそのころはまだ「2年で3回くらい」と考えていたのですが、結局それも「無理だね」となり、次の11号で年刊の雑誌として位置づけ直しました。今号は年刊としての体制がついに安定したので、どうせ年1回しか出せないから、その分、ページ数やコンテンツを増やしていこうとポジティブに考えられるようになりました。そして、すこし贅沢に作りましょうという気持ちになったことで、すごくいい本にすることができたように思います。

 うちは編集部の人数が少ないのですが、スケジュールを多少遅らせてもいいからきちんといい本を作ろうと考えています。だから急にレイアウトを見直そうとか、図版を加えようとか言い出したりすることもある。ていねいに作るためには、現在の刊行ペースは理想的です。

――ページ数が増えてしまう原因は何でしょうか。たとえば、執筆者の方が依頼した分量を越えて書かれてくるとか、そういったものを想像しますが。

 それは、『ゲンロン』の編集側の問題だと思います。批評家の東さんが編集長であることにも起因するかもしれませんが、ゲンロンでは頂いた原稿に対して「ここの部分膨らませていただけますか」とか「ここの部分ちょっと構成を変えて、このテーマをこう展開すると面白いんじゃないんですか」など、かなり意見を言うんです。だから、頂いた元の原稿から分量が少なくなることはまずなくて、だいたい加筆される。こうして全体のページ数が増えていく。

 インタビューや座談会を構成していくうえでも、なるべく要素をうまく残すようにしています。今回の特集で取り上げた「無料とはなにか」の座談会も、ライターさんに作っていただいた第一稿から、各著者がかなり加筆しています。構成時にもったいないけど切り捨てざるを得なかったエピソードが、著者の校正の過程で加筆されて戻って来ることもあります。対談・座談会の原稿の場合でも、著者が加筆する際の文字数に制限はかけません。むしろ自由に加筆して頂いて、その現場で話されたものとは独立した記事として作ればいいという編集方針です。

 そもそも目次がフィックスされるのは10ヶ月ほどの編集期間の最後のほうです。今回も、「あともうちょっとこれがあるといいよね」とか、だいぶ後から追加で原稿を依頼したりして、どんどんページ数が膨らんでいった。次号が1年先なので、トピックを後回しにできないんです。

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