ゲンロン社長 上田洋子 インタビュー(前編) 「すこし贅沢に作りましょうという気持ちになったことで、すごくいい本にすることができた」

コロナ禍で生み出された『ゲンロン12』と編集者・上田洋子の原点

『ゲンロン戦記』との相乗効果

――「ゲンロン友の会」の会員数はどのくらいでしょうか。東さんの『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)のグラフでは5期から10期にかけて、順調に数字を伸ばしていますね。同書には会員の職種内訳も掲載されていますが、通常の人文系の読者とも異なるように見える、IT関係者の多さには驚きました。

 会員数は、11期の末時点で4414人でした。10月から会期が変わって、現在まだ更新期間中なのですが(注:10月7日時点)、12期の会員数は3700人ほどです。今年に入ってからは会員の伸び率は150%くらいです。11期の特徴としては、毎月それなりの人数の入会者がいた点が挙げられます。昨年10月にシラスを始めたのでそれが宣伝効果になったのと、東さんの『ゲンロン戦記』の効果もあったと思います。

 IT関係はエンジニアの方が多いのでしょうね。IT業界には勉強熱心な方が少なくないので、哲学にも興味を持たれるのだと思います。もともと東さんがインターネットにすごく親和性が高い人で、黎明期からネット上で活動し、情報社会の思想を生み出してきた。ネットをある種の自由の場所とみなしてきた人なので、そこに惹かれる方も多いのかもしれません。

 その他にも多様な職種の方が集まっていますが、最近ではやきとり屋さんとか旅館のオーナーとか、生活に根付いた職種の方がけっこういらっしゃるのが嬉しいです。『ゲンロン戦記』の影響で言うと、ツイッターの反響を見ていると「事務が大事」という言葉に共感して下さっている方が多くいて、幅広い読者層に届いているなと感じています。

51WN470pU-L._SX315_BO1,204,203,200_.jpg『ゲンロン戦記』(東浩紀著/中公新書ラクレ)

――『ゲンロン戦記』には、上田さんがゲンロン入社後、書類をファイリング化し「革命」を起こされたと書かれていますね。

 むしろ「保守化」なんじゃないんでしょうか(笑)。最初にゲンロンに来たときは、先進的な会社だからペーパーレスなんだ! と思いましたから。本書にも出てきますが、かつて事務を担当されていた方はエクセルが得意でした。けれども難しいマクロを使っていたりして、彼がいないと操作できないものも多かった。私は誰が見てもわかるほうが良いのではないかと疑問を呈したりもしました。

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