高畑鍬名(QTV) 平成のタックアウトから令和のタックインまで
Tシャツから見えてくる時代
高畑鍬名(QTV)[タックイン研究者]
ファッションの時刻表
フランス文学者の多田道太郎は「時刻表とファッション」のなかで、「一時の『流行』として入ったものが、次第にひろがり、数年にわたって定着するとこれが『風俗』となる。さらに安定した『習俗』になるかどうか、それの問われている段階が風俗である」と書いている。この枠組みをシャツのタックイン/アウトに当てはめてみよう。
Tシャツはもともと下着のため、人前で一枚で着るものではなかった。そんなTシャツを外着として着る行為は日本に定着した「習俗」である。Tシャツの裾については「しまう風俗」と「出す風俗」が時代ごとにあり、「流行」という亀裂が入ることによって風俗は断絶する。タックインという風俗をひっくり返す形でタックアウトの流行が生まれ、価値観が反転した。そして30年後にもう一度、価値観がひっくり返ったのである。
多田は同じ文章のなかで、イギリスの服飾史家ジェイムズ・レイヴァーが『趣味とファッション』で提唱した流行の年代史を紹介している。
10年前 見苦しい(Indecent)
5年前 恥知らずの(Shameless)
1年前 とっぴな(Outré/Daring)
―― しゃれた(Smart)
1年後 やぼな(Dowdy)
10年後 みにくい(Hideous)
20年後 滑稽な(Ridiculous)
30年後 面白おかしい(Amusing)
5年前には「恥知らず」で、1年前には「とっぴ」であったスタイルを「しゃれた」ものに感じるようになる。この不思議な反転が流行と同調圧力の関係を読み解く鍵だ。