高畑鍬名(QTV) 平成のタックアウトから令和のタックインまで
Tシャツから見えてくる時代
高畑鍬名(QTV)[タックイン研究者]
路上がメディアを追い抜くとき
ストリートファッション研究を続けている渡辺明日香は「〈ファッション〉のオルタナティブとしてのストリートファッション」という論考で、ファッション誌でも「ストリートスナップ」に注目し、その歴史のなかで起こった革命について書いている。
ファッション雑誌の多くは、スタイリストの用意した服をモデルが着る「グラビア」で誌面が構成されている。一方、街なかで見かけた印象的なファッションをとりあげるストリートスナップのコーナーがある。渡辺が指摘しているのは、ストリートスナップの影響力がファッション誌のなかで強くなっていく現象だ。
そしてストリートスナップは究極の進化をとげる。ストリートスナップだけで構成された雑誌が誕生するのである。
原宿の路上に集まる若者の写真のみで構成されたストリートスナップ誌『FRUiTS』(1997年創刊、2017年休刊)は、海外でも注目されるようになり、ついには海外のハイブランドのデザイナーに影響を与えるにいたる。
この逆転現象が起こるまでは、
「パリコレ→ファッション誌→路上」
という順番でファッションの大きな循環が形づくられていた。
しかし、そのサイクルは逆流する。
「路上→パリコレ→ファッション誌」
この逆転現象はつまり、日本のファッション誌が読者に与えようとしている影響力を、東京の路上が追い抜いてしまったことを指し示す。路上の若者がファッション誌を無力化しているのだ。
平成の30年間は路上優位の時代だった。メディアが路上の若者たちにカメラとマイクを向け、今なにが流行しているか聞き出すようになった。
令和の今なお続くこの路上の勝利は、1989年頃渋谷に集まった10代が大きなきっかけとなった。