有國明弘 黒人が生み出した「ストリートの知恵」――ヒップホップは何を映し出すか

有國明弘(大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程)

白人ラッパー・エミネムにとっての黒人文化

 今回のハーフタイムショーに出演したメンバーの中で特に言及しておきたいのは、エミネムである。彼の半生を自伝的に描いた映画『8Mile』(02年)の日本でのヒットもあり、国内で最も知られているラッパーかもしれない。白人貧困層出身である彼が育ったデトロイトにも、LAと同じく黒人をはじめとしたエスニック・マイノリティの貧困層が多く住んでいるため、そこでもヒップホップは彼らの活力となっていた。

 しかし先述の通り、ヒップホップは黒人の文化という側面が強い。そのため、社会的には下層だが白人であるラビット(劇中のエミネムの役名)は、本作でも描かれていた通り、ヒップホップの現場・文化では歓迎されない存在であり、常に排除されてきた。

 だが、彼はヒップホップ文化における白人のマイノリティ性を逆手に取り、また差別の歴史とそれへの抵抗としてのヒップホップという黒人文化へのリスペクトを、彼にしかできない巧みなラップスキルに乗せて真摯に表明したことで、黒人たちからも認められ、受け入れられていく。

 白人でありながら黒人優位のヒップホップで優れたラップスキルとリスペクトを示したパイオニア的存在としてエミネムを見出したのが、前述したドクター・ドレーであった。黒人として「本物のヒップホップ」を体現してきた彼がエミネムを見出した意味は非常に大きく、ラップが人種や地域を問わず聴かれ実践されていく、一つの新たな方向性を示したと言えよう。

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