谷川嘉浩 ネタバレ忌避派と積極派の意外な共通点
消費者は何を求めているのか
マーベル映画を配給しているウォルト・ディズニー社は、エンドゲームそのものをトップシークレット扱いする対応を行っていた。映画パンフレットに寄稿するライターにも映画の内容を伏せているなどは序の口だ。映画公開時には、マーベル・スタジオ関連の公式SNSアカウントが、#DontSpoilTheEndgame(#エンドゲームのネタバレはやめて)との文言を含む画像を投稿していた(Twitter: @Avengers 19/4/17など)。
ネタバレを避けるために、出演する俳優陣にも情報管理が徹底されたとのことだ。「ある役者には、撮影前にセリフだけ伝えるも、誰に向かって話しているのかは伝えなかったという。あるいは、同じシーンをあえて数パターン撮って、どれが本当のシナリオなのか、どんなエンディングなのかをわからないようにしたというエピソードもある」(荻上チキ『みらいめがね2』暮しの手帖社)。このエピソードが公式情報なのか、ジョークとして語られたのか、真偽ははっきりしないが、「これほどの対応が必要な作品なのだ」と、ファンの期待値は高まることになった。
MCU公式はファンの期待に応えてネタバレ対応を行っている。だとすると気になるのは、「鑑賞体験を台無しにしないで」とわざわざ求めることで、ファンが何を守ろうとしているのかだ。エンドゲームの場合、必ずしも核心的ではない情報すら、忌避されていた。
世のすべての人がネタバレ忌避派ではないことには注意されたい。「ネタをばらされても構わない」という容認派だけでなく、「私は結末を知ってから鑑賞する」という積極派まで、実に色々な人がいる。本稿では、こうした事前情報や視聴環境に関わる議論の背景にあるものに照準を絞り、現代のメディア文化に通底する消費者の欲望を掬いとることにしたい。
キーワードは「体験」である。「グッズ・ドミナント・ロジックからサービス・ドミナント・ロジックへ」といった経営用語も、「モノ消費からコト消費へ」「共感の時代」といったマーケティング用語も、体験(experience)を中心に消費が動いていることへの視線を共有している。象徴的なのは、01年にマイクロソフト社が提供した「Windows XP」だ。XPは「体験」を意味する。21世紀は体験の重視へと向かっているとマイクロソフト社は意識していた。消費者は、コンテンツを「体験」する際に何を求めているのか。