谷川嘉浩 ネタバレ忌避派と積極派の意外な共通点
谷川嘉浩(京都市立芸術大学特任講師)
鑑賞体験のコントロール願望
メディア環境が消費のマルチタスキングを要求する時代にあって、私たちは、コンテンツとの接し方をコントロールしたがるようになっている。複数のコンテンツを同時並行で処理したい、映画を観ながら感想をSNSに書き込みたい、待望していたコンテンツは前情報なしに接したいというように、鑑賞体験を自分に合わせて再編集することを消費者は求めている。与えられたコンテンツを唯々諾々と受け入れるのではなく。
メディア研究者の吉川昌孝は、こうした潮流の変化を「ファスト/スロー」という言葉で捉えた(「スマホ時代に生き残るための『再編集』とは?」newsHACK 16/2/10)。膨大な情報に接したいときには素早く、落ち着いてじっくりと鑑賞したいときにはゆったりというように、消費者は、自分の体験の〈速度〉を再編集したがっている。
現代のメディア環境も、コンテンツ供給側も、ながら視聴、隙間時間での鑑賞、倍速やスキップを織り込んだ視聴など、消費のマルチタスク化を前提としている(TVerやNetflix、YouTubeにある倍速やスキップの機能を思い出されたい)。実際、興味のないシーンは飛ばし、日常シーンを倍速で流す視聴者は少なくない(稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』光文社新書)。少なくとも、コンテンツには真剣に向き合うべきだとの考えは凋落している。
以上のように、消費者は「鑑賞体験を思い通りにコントロールしたい」という欲求を持っている。消費者は、供給側や制作者の事情ではなく、自分のニーズに沿って、消費体験を構築したいと考えている。様々な鑑賞とコミュニケーションが同時並行で進む時代にあって、自分の体験をコントロールしたいと望むことは、そう不思議な流れではない。