武田一義(『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』)×中路啓太(『南洋のエレアル』)対談 「戦争という『ストーリー』の彼方を描く」

武田一義氏(漫画家)×中路啓太氏(小説家)

「みんな」という噓

武田 僕には子供のころから、いつか作家になれたら戦争を題材に描いてみたいという衝動のようなものがありました。それは、そのころ聞いた戦争体験者の話が動機になっているように思います。つまり、ある人は「みんな『天皇陛下万歳』と言って死んでいった」と言い、別の人は「みんな『かあちゃ~ん』と言って死んでいった」と言う。この通りだとしたら、どちらかが嘘をついていることになる。でも、たぶんどちらも嘘をついているのではなく、「みんな」というところだけが違うのだろうと、子供心にうっすらと感じていました。しかし、いっぽうで「みんなこうだった」と決めつけたい人がいるというのも事実だと思います。

 最初に編集者から「戦争を描きませんか」と言われたときに、「ぜひこの機会に」と言えたのは、今思えば、そういう衝動が前からあったからかなと思います。


中路 「悲惨な状況を体験したから、こういうふうに考えるはずだ」というのは、政治的な立場と関係していることが多い。例えば、一般紙が集める兵士の手紙や遺書と、靖國神社が集めるものとでは全くタイプが違う。どちらが真相を伝えているのかと言えば、どちらか片方ではなく、どちらも伝えているのだと思います。


武田 過ぎたことは美しく語られがちですが、逆に、悲惨さが増幅されることもある。どちらに対しても物語になるとデフォルメされていく。現実は、中路さんがおっしゃったように、その狭間にあるのだろうと僕も思います。

 戦争を描くときに、嫌な人や悪い人を登場させて戦争の悲惨さを表現する手法は、僕はあまり好きではありません。中路さんは『南洋のエレアル』で、戦場のつらいできごとを描くいっぽう、たくさんの素晴らしい人たちの存在も描いています。それもすごくよかったと思いました。


中路 『ペリリュー』では、組織的な戦いが終わった後のさまざまなできごとが描かれているのもいいですよね。組織的な戦いの後こそが、本当に悲惨なわけですから。


(続きは『中央公論』2023年1月号で)


構成:戸矢晃一

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武田一義氏(漫画家)×中路啓太氏(小説家)
◆武田一義〔たけだかずよし〕
1975年北海道生まれ。2012年、自身の癌闘病体験を漫画化した『さよならタマちゃん』でデビュー。17年度の日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した『ペリリュー —楽園のゲルニカ—』は全11巻で完結。現在は「ペリリュー外伝」を『ヤングアニマル』誌に連載中。

◆中路啓太〔なかじけいた〕
1968年東京都生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。2006年『火ノ児の剣』で小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し作家デビュー。15年『もののふ莫迦』で第5回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。著書多数。『南洋のエレアル』は11月刊行。
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