敏腕編集者たちが語るヒット新書のつくり方――潜在需要をどう掘り起こすか

栗原一樹(講談社 学芸部 学術図書編集部)×田頭 晃(光文社 新書編集部 副編集長)×多根由希絵(SBクリエイティブ 学芸書籍編集部)

新書という形式への意識

──新書の形式で本をつくる際に意識していることを教えてください。


栗原 実は新書編集部にいたのは2年数ヵ月で、かつては雑誌の、今は選書メチエや学術文庫の編集をしています。だから新書について自分が何か語っていいものなのかと。(笑)

 ごく基本的なことですが、体系的・概説的なものであれ、ワンテーマを掘り下げるものであれ、あるジャンルやテーマについて読者が知ろうとしたとき、最初の1冊になる自覚が新書には必要だと考えています。それには予備知識がなくても、ストレスなく読んでいけることが大前提です。また、「要するにこういうこと」といった形で、大胆に要点をまとめる技量も必要でしょう。


──『現代思想入門』でも、所々でまとめを入れていますね。


栗原 千葉さんとは、企画の初期段階から、「要するにこういうことです」「こう使えます」と、哲学者たちのメソッドをアウトライン化(要点化)して示すくらいのことをしよう、という話になりました。ただ、千葉さんが書かれていたことを援用して言うなら、そうして大胆にまとめた後には、何か大切なものを取りこぼしていないか、別の可能性はなかったかと、ある種の未練とともに悩み続けることも重要ではないかと思っています。


多根 私も新書だけでなくビジネス書をつくったりしているので、たいしたことは言えないというか、おこがましいという気持ちでいっぱいです。つくり方としては本当に単行本とあまり変わらず、図や写真を多く入れてしまいます。今、ビジネス書などの企画は、「読むとこういう効能がある」と明確に謳うものが主流になっているように思います。一方、新書の場合は、『映画を早送りで観る人たち』もそうですけれど、根底に大きな問いがあり、それにきちんと納得がいく答えがある内容のものがヒットしていると捉えています。単行本とは違い、問いから入り、読者が思っていたものとは違う世界を見せられる企画ができる点が新書のいいところだと思います。


田頭 僕も新書というか書籍をつくり始めてまだ3年しか経っていなくて......。入社してからの14年間は、女性ファッション誌『JJ』や『CLASSY.』の編集をしていました。全く畑が違うので、この3年間は、自分なりに新書ってなんだろうと考えながらやってきましたが、今は新書ブームからのさらなる転換期なのではないかと見ています。

 岩波新書から始まって約85年、中公新書、講談社現代新書といった御三家をはじめとする長年の蓄積のおかげで、新書というメディアについては読者や書店の根強い共通理解があります。基本的には、その理解の中に飛び込みたいというか、教養新書や学術の入門書に本家帰りしたほうがいいというスタンスでやっています。対象としたい読者層は、本を読むか読まないかでいうと、進んで本を読む人で、中でも新書に対するイメージを明確に持っている人です。新書ブーム以降拡大する一方だった新書の定義をあえて狭めて、そこでおもしろいことができたらいいというのが、個人的な方向性ですね。

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