敏腕編集者たちが語るヒット新書のつくり方――潜在需要をどう掘り起こすか

栗原一樹(講談社 学芸部 学術図書編集部)×田頭 晃(光文社 新書編集部 副編集長)×多根由希絵(SBクリエイティブ 学芸書籍編集部)

編集に求められること

──新書の編集を、あえて一言で表してください。


栗原 先ほども触れた「要約+未練」でしょうか。新書は特に紙幅の限定されたメディアですが、そこに込めるもの、こぼれるものを十分意識できたなら、1冊分の容量以上に読者の思考は触発されて、次の本を読みたくなったり、世界の見え方や考え方が変わっていったりする。新書をつくるなら、そういう作用をもたらす最初のステップボードのようなものであればと思っています。


多根 新書であれば、「大きな問い」を立てることです。コロナ禍以降、社会や、ネットの中の世界に違和感があり、社会はこのままでいいのかという疑問が自分の中にありました。成田先生の論文「民主主義の呪い」(2021年)と出会い、どうして違和感があるのかがそこに言語化されていたんです。それが『22世紀の民主主義』の基になりました。新書は、今取り上げるべき大きな問いを企画として立てられますし、それができた本が、読者の広がりを生むのではないかと考えています。ですから、こうした問題について、著者と読者をいかに「マッチング」させてあげられるかをいつも考えています。


田頭 多根さんと重なるのですけれど、新書は「繋ぐ」がキーワードだと考えています。専門性の高い著者と読者を繋ぐ、アカデミアで頑張っている著者をメディアに繋ぐことで多くの人に知ってもらう。あるいは書店と出版社を繋ぐ役割も大きいですよね。新書は社名を冠して棚に置いていただいていますから、書店や読者に出版社について何らかのイメージを持っていただく上で、媒介にもなっています。

 また新書は、ジャンルとジャンルを繋ぐことも、単行本より気楽にできる可能性があります。例えば僕が編集した三木那由他さんの『会話を哲学する』(光文社新書)は、言語哲学のエッセンスを易しくというコンセプトで、マンガの会話を引用しました。すると、マンガの作家さんはもちろん、その読者との繋がりも生まれます。あるいは新書からテレビや新聞、雑誌、ウェブなどのメディアが企画を思いついたりするケースもあるでしょう。そういうハブみたいな役割を、新書は担い得るのではないかと考えています。

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