矢澤澄道 『月刊住職』編集長インタビュー「日本のお寺はなくならない」
首都圏ではむしろ足りない!?
お寺の数が減り続けている、という言説も、実態を十分把握しているようには思えません。
日本には「檀家制度」があります。お寺が地域の役所のような存在でもあった江戸時代には、全国で50万くらいの寺があったようですが、明治から昭和にかけて10万くらいになりました。
その後も数は減りましたが、2016年の『月刊住職』正月号で、都道府県別に「仏教寺院数と人口の関係」を調べた記事を掲載した際には、全国の仏教寺院総数は1962年が約7万5000、2013年が約7万7000でした。そのあたりから、実は数の変化はあまりなく、文化庁の「宗教年鑑」によると、2021年の仏教寺院数は約7万6000。つまり「お寺が激減」というような変化はしていないのです。
人口が減り、お寺を必要とする人の数が減れば、お寺の数が減っていくのは自然の流れですが、総数を見るとお寺の急減という現象は起きていない。
むしろ問題なのは、人口の移動です。人口が集中し続ける首都圏と、減り続けて過疎化していく地方とで、お寺との関わり方に大きな格差が生じていることだと思います。
先の2016年『月刊住職』の記事では、各都道府県別の「1ヵ寺あたりの人口」も算出したのですが、全国平均が1000人台であるのに対し、東京は1962年が3844人、2013年は4629人と、平均の3~4倍です。同じく首都圏で人口が増加している埼玉、千葉、神奈川も似たような状況です。これらの都県は、お寺の数も増えているとはいえ、人口の伸びからすると圧倒的に不足し続けている状況です。
日本人は確かに普段、仏教やお寺に関心を払わない傾向にありますが、それでも葬儀や法要を行う時は、近くのお寺と僧侶を頼りたいと思うものでしょう。しかし、人口集中地域ではそれがままならない。こうした地域では、人が集まる施設を新しく作るのを嫌う傾向もあり、お寺を増やすのは容易ではありません。つまり、いざという時に頼れるお寺を持っていない人が増え続けている。そのことこそ、現在の仏教の深刻な問題だと思うのです。
(続きは『中央公論』2023年9月号で)
構成:秋山圭子
1948年神奈川県生まれ。70年明治大学法学部卒業。72年高野山専修学院修了。流通業界紙の記者を経て、仏教系出版社に入り、74年『月刊住職』創刊。98年出版社・興山舎を設立し、社主に。74年から高野山真言宗安楽寺住職。