水野太貴「発音とアクセントはどう移ろうか――歴史言語学者・平子達也さんに聞く」
水野太貴(「ゆる言語学ラジオ」チャンネル)×平子達也(南山大学准教授)

(『中央公論』2025年6月号より抜粋)
私の父も話す名古屋方言は、「日本で最も○○」な方言として、しばしば方言学の教科書に取り上げられる。何かおわかりだろうか?
正解は、最も「母音が多い」方言である。「あいうえお」の5母音に加えて、[æ:](えぁー)、そして[ü:](うぃー)、[ø:](おぃー)の三つを備える。
「おみゃーさん(あなた)」とか「しよみゃー(しましょう)」などの表現を聞いたことのある方もいると思うが、この「みゃー」は標準語の「みゃー」音とは異なり、英語でmapと発音する時の「マ」の音に近い。学校では「だらしない口のア」などと習う音である。なので、名古屋の人は英語の授業で[æ]の音を習うと、難なく発音できる。
このように、実は方言によって、備えている母音の種類は異なる。この事実は僕にとって衝撃だった。五十音表を習ってから、日本語は五母音だと信じて疑いもしなかったからだ。