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小川寛大 戦時指導者リンカーンの実像

小川寛大(『宗教問題』編集長)
エイブラハム・リンカーン(1809~65)
『南北戦争』(中央公論新社)の著者、小川寛大さんがエイブラハム・リンカーンを通して戦時下のリーダーのあり方を考えます。南北戦争という巨大な内乱に向き合った彼は、いかなる人物だったのか――。
(『中央公論』2022年6月号より抜粋)

ポピュリストと英雄の狭間

 2月24日から始まった、ロシアによるウクライナ侵攻が世界中の注目を集めている。そして、その中である種の驚きとともに評価されているのが、ウクライナ大統領、ウォロディミル・ゼレンスキー氏の指導力である。ロシア軍が迫る首都キーウ(キエフ)から一歩も引かず、SNSなどを駆使して国民を鼓舞。また諸外国の議会や国連で行ったオンライン演説では、対象国の事情によって巧みに言葉を使い分けるなどし、多くの支持と共感を集めた。

 ロシアと比べれば国力の小さいウクライナを支えているのは、まさにゼレンスキー大統領のカリスマ性であり、今や彼は国際政治の中心点とさえ言える。

 しかし、これもまた広く知られているように、ロシアによる侵攻が行われる前のゼレンスキー大統領は、必ずしも優秀な政治家とは見なされていなかった。俳優・コメディアン出身の人気で大統領選に勝利したものの、経済問題や政界の汚職にうまく対処できず、「ゼレンスキーは無能なポピュリストに過ぎない」という評価さえ、珍しくなかった。だが、そうした状況は一変している。戦争は間違いなく不幸なことだが、この戦争はまた間違いなく、ゼレンスキー大統領の何かを変えている。

 ここでわれわれが考えたいのは、「戦時の国家指導者とはどうあるべきなのか、またいかにして鍛えられるのか」という問題である。そして人類の歴史上、最も偉大な政治指導者の一人ともされるある政治家の人生は、われわれにその答えの一つを与えてくれる。

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