中国を警戒し、接近する日露

新・帝国主義の時代【最終回】
佐藤優(作家・元外務省主任分析官)

武力衝突に発展しかねない日中関係

 二月五日夜、小野寺五典防衛相は、一月三十日、公海上で海上自衛隊護衛艦が中国海軍艦船により火器管制レーダーの照射を受けた事実を明らかにした。これより一一日前の一月十九日にも中国海軍艦船が海上自衛隊護衛艦搭載のヘリコプターに対して火器管制レーダーを照射した。中国は、この挑発に対する日本の反応を観察した上で、尖閣諸島奪取に向けた動きを一歩先に進めようとしている。安倍晋三首相は二月六日午前の参院本会議で、〈中国海軍艦艇による射撃管制用レーダーの照射について「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾だ。戦略的互恵関係の原点に立ち戻って再発を防止し、事態をエスカレートしないよう強く自制を求める」と述べた。/首相は、外交ルートを通じて中国側に抗議し、再発防止を要請したことを強調。「日中両国で対話に向けた兆しが見られるなかで、一方的な挑発行為が行われたことは非常に遺憾だ」と批判した。〉(二月六日、MSN産経ニュース)。安倍首相は、言葉を選んでいるが、「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾だ」という表現は、外交的にかなり強い懸念の表明だ。火器管制レーダーを照射するということは、平たく言って、「いつでも攻撃する用意がある」ということである。中国は、挑発のレベルをどこまであげれば日本が実力行使に出るかを慎重に見極めている。今回の中国側の挑発行為に対して、政府と国民とマスメディアが一丸となって反撃しないと、中国はさらに挑発のレベルをあげ、そう遠くない将来に偶発的な日中武力衝突に発展しかねない。事態はかなり緊迫している。

 防衛省は強い危機意識を持っている。特に二月七日の衆議院予算委員会における小野寺防衛相の以下の答弁が重要である。

〈小野寺五典防衛相は7日午前の衆院予算委員会で、中国海軍の艦艇による海上自衛隊護衛艦への射撃管制用レーダー照射に関し「国連憲章上、武力の威嚇に当たるのではないか」との認識を示した。同時に「このような事案が起きないよう海上の安全メカニズムを日中間で協議する窓口も必要だ」と述べ、海上での偶発的な衝突を防ぐため、日中防衛当局間などの「ホットライン」構築が重要との考えを示した。自民党の石破茂幹事長への答弁。〉(二月七日、MSN産経ニュース)

 国連憲章第二条四項は、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」と定めている。公海上での中国海軍艦船による海上自衛隊護衛艦並びにヘリコプターへの火器管制レーダーの照射を「武力による威嚇」であるという日本政府の認識を小野寺防衛相が示したことにより、日中関係は相当程度緊張する。なぜなら、この発言によって、日本は、「中国は、国連憲章を含む国際社会で確立されたルールを無視する無法者である」という宣言を国際社会に対して行ったからだ。

 中国は、中国海軍艦船が火器管制レーダーを照射した事実はないと事実関係を全面的に否定し、本件は日本によるでっち上げであるとの宣伝活動を行っている。

〈「日本の説明は、全くのでっち上げだ」
 8日午後、中国外務省の定例会見。華春瑩・副報道局長は、強い口調で語り始めた。前日までの「関係部門に問い合わせて欲しい」という態度とは打って変わり、「今回の事態を通じ、日本は一体何をしたかったのか。今後は、二度とこうした小細工をしないよう望む」とまで言い切った。

 日本政府の発表から3日間の沈黙をおき、中国政府が動き始めたのは8日朝。入念に検討を重ねたうえで、全面否定と日本批判という「統一見解」を打ち出したといえる。

 まずは国防省のウェブサイトのトップ項目が退役幹部の行事のお知らせから、「火器管制レーダーは使用していない」との声明に切り替わった。尖閣諸島周辺海域での日本の「主権侵害」を主張する過去のニュースも3本並べ、一気に日本非難にかじを切った。

 直後には、レーダー照射を全く報じてこなかった国営新華社通信も日本批判を開始。中央テレビのアナウンサーは「日本が計画的に虚偽情報をまき散らした」と断じ、日本と真っ向から対抗することを強調した。〉(二月九日、『朝日新聞』デジタル)

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