2020年、最高の盛り上がりを見せた中国のEC商戦。女性インフルエンサーが一日で904億円売り上げることもあるライブコマースは今や脱貧困・格差是正の救世主に

ますます活況を見せる中国のオンラインショッピングはどこへ向かうのか
西村友作

ライブコマースが脱貧困・格差是正の手助けに

売上増に大きく貢献したのはライブコマース、ネット版テレビショッピングである。

ライブコマースでは、販売員が生放送で商品を紹介し、視聴者からの質問もその場で受けつける。ライブ配信を見ながら販売員とコミュニケーションできるため、写真画像だけのネット通販と異なり、視聴者はより商品を理解することができるのが特徴だ。

アリババは、深夜0時のセール開始を待つ消費者を飽きさせないために、豪華スターを集めた前夜祭を生放送する。過去には、アメリカの女性歌手マライア・キャリーさんや、日本人では渡辺直美さんが出演したこともある。

2020年の前夜祭には、ライブコマースのカリスマ「網紅」(ワンホン。インフルエンサーのこと)たちが登場した。その中の一人で、4000万元(約6・8億円)でロケットの発射サービスを即売させたことで話題となった女性インフルエンサーは、10月21日の事前予約販売日の一日で53・2億元(約904・4億円)を売り上げたという。

アリババが運営する生中継ネットショッピング「タオバオライブ」では、セール期間中の利用者が延べ3億人を超え、ライブコマースによる売上も前年から倍増した。

ライブコマースは新型コロナ禍で販路を失った生産者も助けた。浙江省にある義烏(ぎう)市は、100円ショップ各社が大量の商品を調達していたことから「100円ショップの里」と呼ばれていた。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大で取引が激減し、その中で活路を見出したのがライブコマースだった。

もともと卸売り市場、物流拠点、生産工場が集積する地の利を活かし、低コストで仕入れや発送をする環境が整備された。中でも、「直播帯貨村(ライブコマース村)」と呼ばれる江北下朱村には、多くの関連業者が集結し、至る所で生配信が行われ、「網紅」育成講座なども開かれている。

【写真】北京のマクドナルド。電源が切られたオーダー用タッチパネルにはミニプログラム用のQR コードが貼ってある。2021年8 月、筆者撮影.JPG【写真】北京のマクドナルド。電源が切られたオーダー用タッチパネルにはミニプログラム用のQR コードが貼ってある。2021年8 月、筆者撮影.

農村部の脱貧困にも、ライブコマースは一役買っている。中国では、都市部と農村部の格差が大きな社会問題となっており、中国政府も格差是正に力を入れている。

もともと生産基盤が脆弱で販路が限定的であったことに加え、新型コロナの感染拡大で外食向けの需要が減退した。これを救ったのがライブコマースによる直販だったのである。

中国政府も、ネット通販による農産品の販路拡大を後押しする。2020年4月20日、陝西(せんせい)省の農村を視察した習近平国家主席は、地元の名産キクラゲを販売するライブコマースの撮影現場に足を運び、販売員を激励。翌日にはお店の商品がほぼ売り切れたという。

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