パナソニックが日本より先に中国の「養老ビジネス」へ新技術を導入したワケ。中国新経済が急成長した背景にある政府の姿勢とは
社会問題が顕著な分野に対する政府の姿勢
目玉は快適睡眠システム。日々の睡眠状態を測定し、「照明」「空調・空質機器」「その他の住設機器」に制御をフィードバックする「IoT住宅設備」だ。
日本で長年開発してきた技術が原型となっており、北京の実証実験センターで中国人の高齢者を被験者に効果を実証したうえで、導入へと踏み切った。
このシステムは日本ではまだ商品化されていない最新技術が用いられている。
なぜ日本に先駆けて中国市場に投入したのか。
同社の代表取締役副社長で中国・北東アジア総代表の本間哲朗氏によると、スマート技術は日本の高齢者分野では使われにくいが、すでに複数のIoT住宅設備が市場に導入され、国民の誰もがスマホを使う中国では、導入上のハードルが低いという。
デジタルリテラシーが比較的高く、イノベーション上の失敗に寛容である中国の特質を活かしながら、顧客価値が確立した商品については、日本や他のアジア諸国への展開も視野に入れている。
中国政府は、社会問題が顕著な分野に関しては、過度な規制をかけず、イノベーションが生まれやすい環境を整備することで、新しいビジネス、サービスの誕生を促し、さまざまな社会問題が解決へと向かうことを期待している。これらの分野は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスとなるだろう。
※本稿は、『数字中国 デジタル・チャイナ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
西村友作
新型コロナの震源地・中国はなぜ感染を抑え、プラス成長を達成できたのか? 当局はなぜアリババ集団ら巨大ITへの統制を強めるのか? コロナ禍にあえぐ米欧を横目に、中国はデジタル防疫・経済成長・デジタル金融の三位一体を実現。そこには覇権的な政治体制だけでは説明できない、重要な経済ファクターがある。民間需要を取り込み、政府主導で建設が進む「数字中国(デジタル・チャイナ)」がその答えだ。日本にとってビジネスのチャンスか、経済安保上のリスクか。現地専門家が、ベールに包まれた“世界最先端"のDX戦略の実態を描き出す。
1974年熊本県生まれ。中国・対外経済貿易大学国際経済研究院教授、日本銀行北京事務所客員研究員。専門は中国経済・金融。2002年より北京在住。10年に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士号を取得し、同大学で日本人初の専任講師として採用される。同大副教授を経て、18年より現職。著書に『キャッシュレス国家』(文春新書、2019年)がある。メディアでは主に中国のフィンテック、新経済(ニューエコノミー)などを解説。『日経ビジネス』にて「西村友作の『隣人の素顔』――リアル・チャイナ」を連載中。