阿古智子 ロシア・ウクライナ戦争とコロナ下の中国の内実

阿古智子(東京大学教授)
写真提供:photo AC
 現在の国際的な有事における中国は、どのような立ち位置にあるのか。また、ロシアとの関係やコロナ対策の実態は――。中国研究者の阿古智子氏(東京大学教授)が論じる。
(『中央公論』2022年6月号より抜粋)

プーチンは習近平に伝えたのか

 世界を大きく揺るがしているロシアのウクライナへの軍事侵攻。中国の習近平国家主席は、政府関係者や国民はどう見ているのか。そもそも、習近平主席はこのことを事前に知っていたのか。

 ロシアが近く侵攻するとの警告をアメリカが発信しても、中国の『環球時報』は社説で「米国の電話詐欺的やり方に要警戒」と批判していた。ウクライナの中国大使館は、ロシアが軍事侵攻した日もコロナに関連する情報を発信していたし、現地の留学生ら600人ら第1陣が陸路で退避を開始したのは2月28日と、他の国々よりもずっと遅かった。

 一帯一路、空母建造や武器提供で協力関係を築いていたウクライナが突如、主権を侵害される形でロシアに攻撃されたのだ。過去に自らの国も今回のウクライナと同様に、帝国主義勢力に侵略されたというのが中国の正統な歴史観だ。これまで中国政府は、主権侵害の観点から「台湾独立」は断じて許されないと強く主張してきた。

 しかし中国は、北京冬季五輪の開会式にプーチン大統領を招待し、習近平主席が一対一の晩餐会を催している。二人は北大西洋条約機構(NATO)のこれ以上の拡大に反対する共同声明を発表した。あの時、プーチン大統領は習近平主席に、ウクライナを攻撃すると説明したのか。台湾に関しては何らかの話が出たのか。さまざまな憶測が出ている。

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